「大きな企業」のイメージは人によって異なるが・・・
これまで数字を使ってホンモノとニセモノを見抜く方法について解説してきましたが、数字の見方についてもう一度整理したいと思います。数字を見る時にはいくつかポイントがあり、ここを押さえておけば大きく間違うことはありません。
最初に注意する必要があるのは数字の絶対値です。
人は、日常生活で使っている数字のケタから大きく外れると、感覚が麻痺してしまうという特徴を持っています。お金でいえば1億円くらいからがこれに相当するでしょう。
億を超えると、人によっては10億円と100億円について、似たような印象を持ってしまいます。兆の単位になるとなおさらです。このため売上高や利益が大きい大企業は場合によっては一括りになってしまい、判断を鈍らせてしまいます。
いくつか具体的な会社名を挙げてみましょう。
以下は、どれも大手として名前が知られている企業です。
●トヨタ自動車
●東芝
●シャープ
●サムスン電子
●三菱重工
東芝とシャープは経営危機に瀕した企業ですが、大きすぎて潰せないといった声も出ていることなどから、とても大きな企業というイメージを持っている人も少なくありません。
三菱重工は国産ジェット旅客機MRJを開発したり、宇宙ロケットを手がけたりしていますから、こちらも極めて大きな企業というイメージがあると思います。
トヨタについても、大企業というイメージがあるのは同じだと思いますが、自動車という身近な製品を作っていますし、サムスンに至っては単価の安い携帯電話が主力です。人によってはそれほど大きいというイメージを持っていないかもしれません。
では具体的に各社の経営規模を数字で確認してみましょう。
●トヨタ自動車 売上高28兆円 営業利益2兆8000億円
●東芝 売上高5兆7000億円 営業赤字
●シャープ 売上高2兆5000億円 営業赤字
●サムスン電子 売上高20兆円 営業利益3兆円
●三菱重工 売上高4兆円 営業利益3000億円
「売上高の大きさ」と「市場での影響力」は比例する⁉
数字で見ると各社の大きさはまるで異なります。中でもトヨタ自動車とサムスン電子の巨大さは突出しています。両社は「超」がつく大手企業であり、市場における存在感や影響力は別格です。
確かにシャープも大手企業かもしれませんし、シャープが潰れてしまうと大きな影響があるでしょう。しかしシャープの売上をすべて足し上げても、トヨタやサムスンの1年間の利益分にしかなりません。両社はまさにケタ外れの大きさということになります。
企業は売上高の大きさですべてが決まるわけではありませんが、売上高の大きさと市場での影響力はかなりの部分で比例します。これらの数字を見ると「大手企業」といって一括りにしてしまうことは、かなり乱暴であることがお分かりいただけると思います。
企業に関する情報に接した時には、まず売上高がいくらで利益がいくらなのかチェックするクセを付けるとよいでしょう。上場企業の場合には公表が義務付けられているので確実に情報を入手できますし、非上場企業でもこうした経営情報を開示するところがあります。
またメディアの記事や信用調査会社のWebサイトなどから財務情報を入手できることもあります。
こうした視点で企業を眺めていくと、「ああ、この企業は売上高を公開したくないんだな」「ということは、思ったほど影響力が大きくないのではないか?」といった推論も可能となります。
逆に売上高は積極的に公開しているにもかかわらず利益に関する情報がないのは、あまり儲かっていない可能性が考えられます。人は都合のよい情報は出したがりますが、都合の悪い情報は隠したがります。
これは企業という大きな組織でも同じことです。