曖昧な言い回しで事業を大きく見せようとする企業も
筆者は先ほどから数字はウソをつかないと説明してきました。意図的に虚偽の数字を出さない限り、数字ははっきりと物事の状態を映し出します。つまり数字には相当な説得力があるわけです。
しかし、その説得力が逆に悪用されてしまうこともあります。巧妙な人は、数字をうまく活用して自分をよく見せようとするからです。世の中には、こうした数字のマジックがあちこちに存在していますから注意してください。
数字そのものは同じでも、それが何を意味しているのかは、数字の定義によって大きく変わってきます。典型例が売上高と利益です。
企業の場合でしたら、本来は、売上高、当期利益と名称がしっかり決められています。売上高は製品やサービスを売った金額そのものであり、当期利益は、そこから仕入れや各種経費、税金を差し引いて会社に残った利益になります。売上高がいくら大きくても、当期利益が小さければ、会社は儲かっているとはいえません。
ところが、あえて正式な表現を使わず、曖昧な言い回しをすることで、事業を大きく見せようとする人もいます。「弊社の収益は拡大しており10億円に達します」などという説明の場合、売上高なのか利益なのかがはっきりしません。売上高が10億円であっても利益がゼロでは経営状況は健全とはいえないでしょう。
数字と言葉の「上手な組み合わせ」に注意
似たようなケースは、不動産投資から得られる収入や、ブログから得られる収入を説明する場面においてもよく見られます。近年、アパートやマンションを一棟買いして賃貸収入を得る、いわゆる大家さん業がちょっとしたブームになっています。メディアには不動産投資で成功した人の話がよく紹介されますし、自らその成功事例を紹介し、有料セミナーなどで稼いでいる人もいます。
多額の資産を持つ富裕層でもない限り、ほとんどの人は現金でポンと不動産を買うことはできないでしょう。多くの人は、銀行から融資を受けて不動産を購入することになりますが、借りたお金は返さなければなりません。家賃収入がそのまま自分の利益になるわけではなく、そこから必要経費や税金などを差し引き、さらに銀行への返済を行った後の残りが本当の利益です。
しかし、不動産投資で成功したと喧伝している人の中で、本当の利益まで公開している人はごく少数です。家賃収入だけを公開し、そこからローンの返済などを済ませた残りの利益については明らかにしていないのです。いくら「家賃収入、年間8000万円」とうたっていても、銀行に借金を返済すると赤字になっている可能性は否定できません。確かに数字はウソをつきませんが、だからといって、数字をそのまま信じることはやめた方がよいでしょう。
ブログで稼いでいる人も似たような状況です。
コンテンツの質が高く、しっかりとした読者が付いていれば、経費をかけてブログを宣伝しなくても、十分なアクセス数を確保することができます。しかし、ブログの運営者の中には、思ったほど、アクセス数が集まらないことから、お金をかけてアクセスを誘導することで広告収入を維持している人もいます。
そうなると、ブログから得られる収入が年間2000万円とうたっていても、実際には経費が1500万円かかっており、実質的には500万円しか年収がないこともあるわけです。
このケースは、企業会計の用語で説明すれば、収入が2000万円なのではなく、年商が2000万円、あるいは年間の売上高が2000万円となります。私たちが年収としてイメージするのは、すべての経費を差し引いて手元に残ったお金のことですから、これは会計上では利益ということになります。
ブログで儲ける話や不動産投資で儲ける話を見聞きした時には、年商のことなのか、利益のことなのかについて注意を払う必要があります。このあたりを曖昧に表現している場合には、その人の経済状況については少し疑ってかかった方がよいでしょう。数字をうまく見せようという人は、見せ方のテクニックも上手ですから、騙されないようにしなければいけません。特に気をつける必要があるのは、言葉との上手な組み合わせです。数字を数字として使わず、情緒的な言葉と組み合わせて使えば、数字でウソをつかなくても、同じような効果を得ることができるからです。