震災被害額も「おおよその数字」であれば推定可能
実業家が土日に不安になってしまうのは、今後の推移に関する情報が得られないからです。逆に考えれば、人間は悪い情報であっても、正しい情報を得られれば、それだけでかなりの精神的安定を得られるということになります。
震災の話に戻りましょう。地震が発生した時、直接、被災していない人も不安になるのは、この先、経済や社会がどうなってしまうのか予想がつかないからです。しかし数字に強い人は、状況を理解し、適切な行動を取ることができます。
震災がもたらす被害の総額が分かれば、それがどれだけの影響を社会に及ぼすのか、ある程度、予想することができます。被災のレベルを数字で理解することが、不安心理を取り除く最良の方法というわけです。
震災の被害はどのくらいになるのかという問題について、多くの人は、正式に調査をしなければ分からないと考えてしまいがちです。
しかし、おおよその数字でよければ、こうした詳細な調査を待たずに被害額を推定することは可能です。こうした災害が発生してまだ時間が経っていない段階では、いつ出てくるか分からない詳細な情報よりも、おおまかでもよいのですぐに得られる情報に価値があるのは明白でしょう。
「被害者数・1人あたりGDP・固定資産総額」から推測
実際、筆者は地震発生直後におおよその影響を計算しましたが、後になって得られた詳細な情報と大きな差はありませんでした。具体的には以下のように考えます。
地震の被害を受けたのは、主に岩手、宮城、福島の3県です。震災直後は現地の様子がよく分かりませんでしたが、沿岸部が壊滅的な被害を受けたことだけは確実でした。
各県の沿岸部にどれだけの人やモノ、お金が集中しているのかは、すぐには分かりませんが、ざっと各県の2割程度の人が大きな被害を受けたと仮定すると、各県の人口から、その人数は約100万人と計算されます。
当時の日本における1人あたりGDPは約380万円でしたが、地震で大きな被害を受けた人は、これまでと同じ生産活動を行うことが難しくなります。かなり粗い数字ではありますが、被災した人の数と1人あたりのGDPが分かれば、年間の経済的な影響を推定できます。計算すると約3.8兆円となり、これはGDPの0.8%程度に相当します。
これに加えて、被災した人や企業は、建物などが使えなくなりますから、その分に関する金額も考慮する必要があるでしょう。
これについても正確な金額を特定するには詳細な調査が必要ですが、年間の影響額と同様、おおまかな数字を算定することは可能です。
内閣府の統計から、2011年の固定資産の総額は約2700兆円であることが分かります。この数字をもとに、日本の総人口と被災した100万人の割合から、毀損した可能性のある固定資産は約21兆円と算定されます。こうした固定資産は10年や20年という期間を経て償却されるものですから、20年とすると年平均では2兆円になります。
両者を総合すると、年間の影響額は5.8兆円となり、これはGDPの約1.2%に相当すると計算されました。
確かに大変な被害ではありますが、日本経済の体力を考えれば、十分に対応が可能な額です。日本の将来に大きな不安を感じる必要はなく、被害を受けた人の支援に全力を尽くせばよいということが理解できるでしょう。
ちなみに、その後、政府が試算した被害総額は16兆から25兆円という金額でしたから、筆者の予想とは大きくズレていませんでした。
大事なのは、細かい金額まで特定することではなく、多少のブレはあってもよいのでおおまかな数字をつかむことです。
これは災害時に限らず、日常的なビジネスや投資でも同じです。
数字を使っておおよその規模感を持って仕事を進める人と、詳細に調べなければ分からないからといって、規模を把握しないままの人とでは結果に大きな差がつくのは当然のことなのです。