トランプの就任前は悲観論が多数を占めていたが…
事前の予想を覆しトランプ大統領が誕生したことで、多くの知識人が混乱に陥りました。金融市場の世界では、トランプ氏が大統領になった場合には株が暴落すると予想していた人も多かったのですが、結果は正反対でした。
確かに就任後のトランプ相場は、彼に対する過度な期待がもたらしたものですが、物事を数字で考えるクセを付けている人にとって、一連の株高を予想することはそれほど難しくはなかったはずです。
経済や市場に関する情報にはたいていの場合、その情報を発信した人の感情が含まれているものです。米国に関する情報にはその傾向が顕著ですから、情報収集する際には注意する必要があります。
ではトランプ大統領が就任する前の米国の状況について整理してみましょう。米国は100年に一度というリーマンショックに直面し、経済や株式市場は大混乱となりました。日本では「米国流の資本主義が限界に来た」「競争の行き過ぎは弊害をもたらす」「米国はこれから長期停滞に向かう」といった悲観論が多数を占めるようになりました。
確かにリーマンショックは米国に大きな衝撃を与えましたが、経済や株価に対する負の影響は、米国よりも日本の方が圧倒的に大きかったというのが現実です。
これは数字を見れば一目瞭然でしょう。
リーマンショック後、2009年の米国における実質GDP成長率は2.8%減と大幅なマイナスとなりましたが、日本はマイナス5.5%とさらに激しく落ち込みました。
日本ほどの大国において5%もGDPが減るというのは、尋常な数字ではありません。
リーマンショックは米国で発生した金融危機ですが、危機を起こした当人はそれほどの被害を受けておらず、太平洋を挟んだ日本で甚大な被害を引き起こしました。その後の経済成長についても、両国では大きな違いが生じています。
米国は、2010年以降、現在まで平均で2.1%の経済成長を実現しています。しかし同じ期間の日本における経済成長は1.2%程度に過ぎません。
日米の「経済的な基礎体力の差」を理解する
株価についても同様です。
リーマンショック前のピークから比較するとダウ平均株価は約5割の下落でしたが、日経平均株価は6割も下落しました。その後、ダウ平均株価は3倍に上昇していますが、日経平均株価は最大でも2.6倍です。
つまり日本と米国とでは、経済的な基礎体力に根本的な差があるわけですが、ここをよく理解しておかないと、経済や株価に関する情報を見誤ってしまいます。
米国では、リーマンショックからなかなか立ち直れず、経済や株価の先行きに関して不安が広がっているとの報道が相次ぎました。しかし、米国の場合には、基準となる経済成長率が根本的に異なっていることを理解しなければなりません。
米国ではリーマンショック以前、平均すると2.7%程度の成長が持続していましたから、この水準に戻らなければ大問題だという話になってしまいます。
しかし日本は長く不景気が続いており、同じ期間で1.5%程度の成長しか実現していませんでしたから、基準となるラインが相当下がっています。日本では2%成長というと、お祭り騒ぎになるほどポジティブな捉え方になるでしょう。
つまり、米国にとってはあまりよくない数字でも、日本と比較すれば、はるかに高い成長ということになるわけです。この違いを理解していないと、物事の根本的な認識が変わってしまいます。
リーマンショック後の米国は、まずまずの成長を続けてきました。しかし、米国人は自己評価が厳しいですから、決して手放しでは喜びません。こうした状況に、トランプ大統領による大型減税やインフラ投資の話が出てきたことから、ようやく米国人もポジティブになり、株式市場が急騰したわけです。
この状況を見て「もともと好調な経済に対して大きな期待が加わった」と考えるのと、「経済が不調であるにもかかわらず期待だけで株価が上がっている」と考えるのとでは天と地ほど異なります。
言葉というものは非常にやっかいで、中立的に見えてもそこには情報を発信する人の価値観が入り込んでしまいます。
このような時は、逆に言葉をシャットアウトして数字だけを見た方が、状況をありのままに理解しやすいでしょう。