ターゲットは学生や20代の独身会社員
アパート市場の「ブルー・オーシャン戦略」であるコンパクトアパート。しかし、そこにはいくつか条件があります。特に重要なのが立地です。
ターゲットとなるのは単身世帯、それも部屋の狭さより家賃の安さに魅力を感じる学生や20代の独身会社員です。彼らにとって、部屋の狭さを我慢しても、家賃の安さの魅力が際立つのが、都心の駅近立地なのです。
従来、こうした条件を満たすのは、築30年以上経っているような共同トイレ、共同洗面所の木造アパートくらいしかありませんでした。
一方、大都市圏でも都心から電車で30分以上かかるような郊外、あるいは都心に近くても駅からバス便のような立地になれば、手頃な賃料で広めのアパートや賃貸マンションが容易に見つかります。そうした立地では、わざわざコンパクトアパートを選ぶメリットがありません。
コンパクトアパートはあくまで、単身世帯が多い東京の人気沿線で、かつ駅から徒歩10分以内程度の立地であることが絶対条件といえます。
ブランドイメージの維持、設計の手間から敬遠
このように「コンパクトアパート」は、賃貸住宅市場における「ブルー・オーシャン戦略」として非常に魅力的なのですが、そうなると気になるのは、他社が追随してくる可能性がないのかどうかです。
確かに、「コンパクトアパート」というのはアパートについてのひとつのコンセプトであり、真似ようと思えば誰でもそれなりに真似ることはできるでしょう。
しかし、以下の2つの理由で、私はさほど心配する必要はないと考えています。
ひとつは、大手ハウスメーカーやアパート専業メーカーは、商品戦略とブランドイメージなどの点から「コンパクトアパート」を手掛けることはないと考えられるからです。
各社のテレビCMなどを見ても分かるように、こうした大手はいずれも付加価値の高い賃貸住宅を地主などに提案しています。そのほうがスマートで恰好よく見え相手(地主など)に響きますし、なにより自分たちにとっては工事費が膨らみ、利益率も高く、会社としてのメリットに結びつきます。
床面積が10〜12㎡程度で浴室がない「コンパクトアパート」のような商品は、手間ばかりかかって売り上げもさほど大きくないので、そもそも視野に入っていないのです。
もうひとつは、「コンパクトアパート」の設計は意外に難しいということです。
例えば、東京都では安全条例によってアパートなどの共同住宅を建てる場合、各住戸から道路までの避難経路について厳しい条件があります。また、エリアによって建物の高さや隣の敷地への日影についても複雑な規制がかかります。
しかも、「コンパクトアパート」は限られた敷地の収益力を最大限に引き出すところに特徴があり、十分広い敷地に余裕を持ってアパートや賃貸マンションを建てるのとはわけが違います。
限られた敷地に最大限の部屋数を確保するということは、それなりの経験とノウハウがないとできません。ただ単に、コンパクトな部屋を並べるだけでは、無駄が多くなって収益性が低下します。誰でもすぐ真似できるというものではないのです。
このように「コンパクトアパート」は賃貸住宅市場におけるユニークかつニッチな存在ですが、私はその「ブルー・オーシャン戦略」をさらに明確にするべきであると考えています。