年齢や体力に応じた治療方針が必要な「高齢者医療」
高齢者医療で起きている問題の根本には、日本の医療のなかに「高齢者に対する医療」という概念がなかったということが挙げられます。
高齢者医療にとって必要なのは、「先進的な治療」だけではありません。高齢者が病気をせず、自宅で健康に生活が送れるような状態を維持し、病気になってしまった場合は、治療が負担にならないよう年齢や体力に応じて治療方針を変えることが必要なのです。
一方加齢による身体の衰えによって自分の足で歩くことのできない患者、自分で食事がとりづらい患者、認知機能の低下が著しい患者などには、治療ではなく介助が必要になります。つまり、患者にとって適切なサポートは医療面か介護面のどちらなのかを見極め、どちらも提供できるように整備をしておく必要があるのです。
介護態勢が整っていない在宅治療は、家族の負担に…
医療費削減のために国が進めようとしている施策は、できる限り入院させることは避け、自宅や高齢者住宅で療養してもらうというものです。しかし、ただ「在宅」へ帰すだけでは、病院を出た患者は適切な介護のサポートを受けることもできず、自宅に追いやられ、その結果家族に大きな負担を強いることになります。
私たちのような高齢者を多く診る病院において、介護態勢が整っていない家族への退院勧告は、患者と家族を切り捨てることになってしまうため、簡単にできるものではありません。医師にはすべての患者をとりこぼすことがないよう、退院してからの医療、介護、生活などを家族とともに考え、誰もが満足できる老後を過ごせるよう道案内をすることが求められます。
どんなに先進的な医療を整えても、介護施設が整っていなければ高齢者の暮らしを支えることはできません。高齢者医療は、介護の部分を切り離して語るべきではないのです。