「奨励・許可・制限・禁止」の4つの受入基準とは?
Question 外資企業の設立手続
外資企業を設立するには、どの様な手続が必要でしょうか?
Point
●外資企業の受入基準は、業種によって、奨励・許可・制限・禁止に分類されている。具体的な内容は、「外商投資産業指導目録」に規定されている。
●外資企業の設立は、商務主管部門の許可を取得した後に工商行政管理局で法人登記をする必要があったが、2016年10月1日の三資企業法改定により、非ネガティブリスト企業は、商務主管部門の許可審査は不要となり、備案(届出)制に変更された。
Answer
1.外資企業の受入基準
外資企業を設立する場合、業種によって、奨励・許可・制限・禁止の何れかに分類されます。この受入基準は、「外商投資産業指導目録」に個別記載されていますので、これにより、設立予定の企業がどの分類に該当し、何らかの制限(出資比率・外国人の高級管理職への就任制限など)が行われないかを把握する必要があります。
尚、外商投資産業指導目録には、奨励・制限・禁止類が記載されており、ここに記載がない業種は許可類となります。
2.認可機関
外資企業の認可機関は商務部となりますが、外商投資産業指導目録の奨励類・許可類については総投資額10億米ドル以下、制限類については総投資額1 億米ドル以下の場合は、地方に認可権限が委譲されています(国弁発[2016]14号)。
地方とは、省・自治区・直轄市・計画単列市・新疆生産建設兵団・副省級都市(ハルビン・長春・瀋陽・済南・南京・杭州・武漢・広州・成都・西安)の商務主管部門と国家級経済開発区を指します。但し、業法に商務部認可の取得を要請する個別規定がある業種については、この限りではありません。
3.商務主管部門の許可
外資企業の設立にあたっては、まず商務主管部門が設立可否を審査し、許可取得後、工商行政管理局での法人登記が認められることが三資企業法には規定されています。
但し、2016年10月1日、三資企業法(外資企業法・中外合資企業法・中外合作企業法)が改定され、また同時に公布された、「外商投資企業設立・変更備案管理暫定弁法(商務部令2016年第3号)」により、非ネガティブリスト外資企業の場合は、商務主管部門の許可審査が不要となり、備案(届出)制に変更されました。
ネガティブリスト外資企業とは、外商投資産業指導目録の制限類・禁止類、及び奨励類ではあるものの、出資比率・高級管理職に関して規制される業種であることが、発展改革委員会・商務部公告2016年第22号に規定されています。
これにより、非ネガティブリスト企業については、従来、商務主管部門の許可審査に要した時間(1か月程度)が、5営業日に短縮されています。尚、上記の備案管理弁法・第5条には、商務主管部門での備案は、「営業許可発給前、若しくは発給後30日以内にオンラインで届出を行う」と規定しています。これに基づけば、法人登記・営業許可証取得後に備案を行うことも可能となりますが、営業許可証の発給を行う工商行政管理局へのヒアリングでは、「営業許可発給前に備案を行うことを推薦する」という回答でしたので、原則として、法人登記前に備案をすることが望ましいといえます。
4.プロジェクト審査など
生産型企業を設立する場合、環境保護局での審査(環境評価報告書の審査)、消防局での建築消防合格証の取得、発展改革委員会でのプロジェクト審査などの手続が必要となりますので、サービス型の外資企業よりも設立手続が複雑になります。
尚、プロジェクト審査とは、工業用地の使用に際して必要となる手続で、「外商投資プロジェクト認可及び登記管理弁法(国家発展改革委員会2014年第20号)」には、以下の通り規定されています。
① 奨励類外資企業
奨励類外資企業は許可審査不要であり、地域の発展改革委員会でプロジェクト登記手続のみを行うこととなります。
但し、外商投資産業指導目録に、中方出資者の支配・相対的支配が規定されている場合は許可審査が必要となり、認可機関は、総投資金額10億米ドル以上は国家発展改革委員会(更に、総投資額が20 億米ドル以上の場合は国務院に報告が必要)、それ未満の場合は、省級以下の発展改革委員会となります。
② 制限類外資企業
制限類外資企業の場合、総投資額1億米ドル以上は国家発展改革委員会の許可が必要であり、それ未満の場合は、地方(省級発展改革委員会)の許可となります。
尚、2016年に国務院より公布された、「政府が批准する投資プロジェクト目録(国発[2016]72号)」では、中方支配要求のある奨励類外資企業の許可取得義務が削除され、制限類外資企業についても、国家認可の基準が3億米ドル以上となっています。これにより、奨励類外資企業の場合は一律登記のみとなること、また政府機関の許可が必要な制限類でも、3億米ドル未満までは地方政府での許可となるものと思われます。
「外資販売会社」の設立フロー
5.社名
外資企業設立時に、まず行う手続が、工商行政管理局での社名登記です。社名登記の根拠法は、「企業名称登記管理規定(国務院令2012年第628号)」であり、以下の様な条件が定められています。
●社名は、商号+業種+地域+組織形態で構成する必要がある。
●商号は漢字2文字以上とする必要があり(ローマ字などの使用は不可)、同一地域内の同一業種で、同一、若しくは極めて類似する商号が登録されている場合は、登録は認められない。
●地域は原則として「市」を使用する。省を使用する場合は、省級工商行政管理局の許可が必要となり、許可取得は困難である。また、「中国」の使用は、投資性公司など特定の場合に限定される。
企業名称は、上記の通り漢字(中国語)の使用が義務付けられ、それが正規名称となります。それを前提として、外国語(原則として英語)名称を併せて登記することも認められます。
6.危険化学品
「危険化学品安全管理条例(国務院令2011年第591号)」・「危険化学品登記管理弁法(国家安全生産監督管理総局令2012年第53号)」の施行により、危険化学品の取扱資格に関するルールが規範化され、管理が極めて厳格になっています。
危険化学品を取扱う場合、商務主管部門での営業許可の取得だけではなく、安全生産監督管理部門における危険化学品取扱許可の取得など各種の手続が必要で、条件面も厳しくなり、手続も複雑なものとなりますので、余裕を持ったスケジュールを設定する必要があります。
尚、危険化学品の定義は、「危険化学品目録・2015年版(国家安全生産監督管理総局・工業信息化部・公安部・環境保護部・交通運輸部・農業部・国家衛生計画生育委員会・国家質量監督検験検疫総局・国家鉄路局・中国民用航空局公告2015年第5号)」に規定されています。
7.外資企業(販売業)の設立フロー
外資販売会社の設立フローは、以下の通りとなっています。
2015~2016年に実施された五証合一(営業許可証・税務登記証・企業組織コード証・社会保険登記証・統計登記証取得手続の統合)、設立許可の許可制から備案制への変更などにより、以下の様な手続の簡素化が図られています。
[図表1] 制度変更前(備案制移行前・五証合一実施前)の販売会社設立フロー
設立所要期間の目安 約4ヶ月
[図表2] 現在の販売会社設立フロー
設立所要時間の目安 約2.5か月