「賃貸経営」をしなければ発生しなかった経費
前回の続きです。
このように不動産経営を考える上で「経費」というのも重要な要素です。よく、「不動産経営をすれば経費が使える」などという言葉を聞きます。これはあまり正確な表現とはいえません。では、「経費が使える」とはどういう意味なのでしょう。
「給与所得」のみの場合、基本的に収入に応じて控除額が決まるため、「経費」という概念は入り込みません。
しかし、「不動産所得」では「必要経費」というものを差し引くことができるため、これが「経費が使える」という言葉の根拠になっていると思われます。
しかし、「必要経費」という言葉が示す通り、所得税の計算上差し引くことができるのはあくまで「必要経費」、不動産経営に必要と認められるものに限られます。
所得税においては、その支出の「どの部分が業務に必要か」を明示することを求めています。これ以降の内容についても、「どの部分が業務に必要か」という点に着目して読み進めていただけたらと思います。
「経費」というものはいろいろな分類の仕方ができますが、ここでは「わかりやすい経費」と「わかりにくい経費」というものに分けてみようと思います。随分感覚的な言葉づかいになりますが、ここでいう「わかりやすい経費」というのはつまり、所得税が求める「どの部分が業務に必要か」がわかりやすいもの、という意味だと思っていただければと思います。
以下がその代表的なものです。
・管理費
・減価償却費
・借入金の利子
これらの経費はもちろん賃貸物件に直接関係のあるものに限られます。
なぜこれらの経費が「わかりやすい経費」かというと、そもそも賃貸経営をしなければ発生しなかった経費であることが明白だからです。
借入金の「元本返済」が経費にならない理由
わかりやすい経費①管理費
管理費とは、賃貸物件の管理を不動産会社(管理会社)に依頼した場合の管理報酬のことです。これは入居者の募集費用や日常的な清掃、家賃の回収など、物件を管理運営する上で発生する様々な業務を代行してもらうことに対する報酬です。
サラリーマン大家さんの場合、自分で物件の状況を毎日チェックしたり、家賃の取り立てを行うのは難しいため、ほとんどの方がこの管理費用を払うことになります。報酬の金額はサービスの内容によって異なりますが、賃料の5%前後が多いようです。
この費用も賃貸経営を行っていなければ発生しない、「わかりやすい経費」です。
わかりやすい経費②減価償却費
前章(※書籍参照)で説明した通り、物件の取得にかかった金額は「減価償却」によって経費化していきます。賃貸マンションの一室を自宅にしている場合などはその部分を経費から除外する必要がありますが、この「減価償却費」も、取得価額と耐用年数がわかればおのずと経費になる金額が決まる「わかりやすい経費」に分類できます。
わかりやすい経費③借入金の利子
物件の取得には借入れがつきものです。そして、借入れをすれば当然返済をしなければいけません。ただ、この返済金額のなかには借入金の「利子」が含まれています。
元本返済額はただの貸し借りに過ぎませんが、それに上乗せして金融機関に支払う「利子」は「経費」に含まれます。もちろん、この借入れは物件取得のための借入れに限定されますが、この「利子」も「わかりやすい経費」に分類できます。
なお、「不動産所得」が赤字の場合、その赤字のうち土地の取得にかかる借入れの利子は他の所得と通算することができずに切り捨てられてしまいます。
「収入が月30万円、借入金の返済が月30万円で、差引ゼロだから、税金がかからない」なんて言う人をたまに見かけます。
借入金のうち元本返済は一切経費になりません。なんでお金が出ていっているのに、経費にならないのかが、なかなか理解できないのでしょう。では、なぜ借入金の元本返済は経費にならないのでしょうか?
自己資金(現金)1億円で建物を建築した場合と、借入金1億円で建物を建築した場合を比較してみましょう。自己資金の場合、返済がないので、経費は、建物の減価償却が主なものになります。借入れをした場合、返済のうち元本部分を経費にしてしまうと、建物の減価償却費も経費にできるので、建物部分が二重に経費になることになってしまいます。
ですから、借入金の返済のうち元本部分は経費にならず、利息部分だけが経費になることになります。