PCや電話の利用を「事業の一環」と主張したが・・・
今回からは、実際の出来事を例に見ていきましょう。
この事例の方は自宅兼事務所の家賃を経費として計上していました。しかし、この家賃について「必要経費」と認められない、という処分がされました。この方はその処分を不服として処分取消を求めて訴えを起こしましたが、請求は棄却され、自宅兼事務所の家賃は経費として認められませんでした。
以下がその事例の詳細です。
【事例概要】
札幌、仙台などに賃貸物件を複数所有する会社員Aさんは、家族とともに生活する自宅の賃料を「自宅兼事務所の賃料」とし、その一部を「必要経費」として計上していた。
【Aさんの主張】
自宅にはパソコンや不動産貸付業務に係る関係書類を保管しており、一部を不動産貸付業務に使用していた。
【調査】
Aさんはパソコンや電話を利用することが事業の一環であると主張したが、具体的に自宅のどこを事務所として使用しているかを説明することはできなかった。
【裁判所の判断(抜粋)】
自宅のどの部分を不動産貸付業に使用していたのかも明らかにできていないのであり、業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分があることを認めるに足る事実ないし証拠もない。必要経費に算入することはできない。
自宅の「どの部分が業務に必要なのか」を明確に
・・・さて、この事例ではAさんは「自宅兼事務所の家賃」を経費にしようとしましたが、結局「どの部分が業務に必要」だったかを明示できなかったため「否認」されてしまいました。
たしかに、自宅は賃貸経営を行っていない場合でも必要ですから、賃貸経営に「必要」とはいえないかもしれません。ですが、極端な話ですが、自宅を持たず、公園で寝泊まりしながら賃貸経営ができるかというとそれは難しいでしょう。書類のやり取りもありますし、パソコンを使うには電源やネット環境も必要です。ですから自宅も賃貸経営に「少なからず必要」な部分もあるはずです。
このAさんの例で判決の根拠になった「どの部分が業務に必要」だったか、というところをAさんが明確にできていたら、結果は変わっていたかもしれません。
具体的には、自宅の一角をパーテーションで区切ってその中を作業スペースとして、書類などもそのスペースに集めるなど、「事務所として明確」な空間を作れれば「どの部分が業務に必要」か明確にできるかもしれません。自宅にそんなスペースがあれば多少生活しづらくなるかもしれませんが、この「生活に不便」ということが、言い換えれば「業務に必要」であることを立証する手助けになります。
最終的には担当の調査官の判断もありますが、こうした事前の準備が「わかりにくい経費」をどれだけ「必要経費」に近づけられるかを決めるのです。