賃貸経営の成否の鍵を握る「税金対策」。本連載では、税理士・司法書士で、渡邊浩滋総合事務所代表の渡邊浩滋氏の著書、『大家さん税理士による大家さんのための節税の教科書』(ぱる出版)の中から一部を抜粋し、「賃貸経営」のための出費なのか、「生活」にかかわる出費なのか、この線引きがわかりにくい経費、いわゆる「グレー経費」を必要経費とするためのポイントを説明していきます。

経費を増やすことで税金を減らせるのは確かだが…

「経費を使えば節税になる」とよく聞きますが、それは本当でしょうか?経費を増やして赤字にするほど、実際の収益は上がるのでしょうか?まずは、具体例で考えてみましょう。「収入・支出・税金」だけを使い、経費を増減させて、手残り金額を比較してみます。

 

①収入1000万円、支出(経費)500万円の場合

 

収入:1000万円

支出(経費):500万円

差引:500万円

税金:110万円

手残り:390万円

 

②収入1000万円、支出(経費)700万円の場合

 

収入:1000万円

支出(経費):700万円

差引:300万円

税金:50万円

手残り:250万円

 

上記を見ると、経費を増やすことによって税金は110万円から50万円と、半額以上の60万円が減額されています。これだけに注目すると、「節税」が大幅にできたように思えます。では、手残りの金額はどうでしょうか。390万円から250万円へと、140万円も減っています。

 

経費を増やすことで確かに税金を減らせることがわかりましたが、それ以上に手残りが大幅に減ってしまうことが判明しました。では、なぜ手残りも減ってしまったのでしょうか。それは、支出(経費)はお金が100%出ていきますが、税金は100%は出ていかないからです。

 

所得税は5%~45%の間で、段階的に税率が適用されます。住民税は一律10%です。所得税・住民税を合わせると、15%~55%の税率で税金を払うことになります。

 

もし、自分の税率が30%の場合、100万円を経費で使うと、30万円の税金が減ることになります。しかし、70万円は実際にお金が出ていっているのです。つまり、経費を使うことは、節税にはなりますが、「お金を残す」という意味での「本当の節税」にはならないということです

「経費の使いどころ」を間違えないことが重要

実際にお金が出ていっていても、「節税」という言葉には不思議な魔力があり、「節税になりますよ」と言われた途端に、財布のヒモが緩んでしまう人は多いようです。

 

「経費を使う」という目的があり、そのために支出をするなら問題ありません。しかし、「お金を残したい」「手残りを増やしたい」と考えるのであれば「経費の使いどころ」を間違えないことが重要です。

 

確かに、税金をたくさん払うと損をした気分になりがちですが、「ムダな経費を使うより税金をきちんと払った方が、手残りは多くなる」ということを理解しておきましょう。

 

まさに賃貸経営は「欲」との戦いです。「税金を払いたくないという欲」との戦いに打ち克たなければいけないのです。本当に資産家になりたいのであれば、出家するしかないかもしれません(笑)。それほど、自己を律すること、己に打ち克つことが重要なのです。

本連載は、2017年6月21日刊行の書籍、『大家さん税理士による大家さんのための節税の教科書』から抜粋したものです。稀にその後の税制改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

大家さん税理士による 大家さんのための節税の教科書

大家さん税理士による 大家さんのための節税の教科書

渡邊 浩滋

ぱる出版

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