環境等の確認のため、多額の交通費を計上していたが…
次の事例は「物件までの交通費」を「必要経費」としていた事例です。
【事例概要】
東京在住の会社員Aさんは札幌等にある物件の周辺環境の確認や破損のチェック等のため、本人や妻、弟その他親族への支出として多額の旅費交通費を計上していた。
【Aさんの主張】
賃貸物件の修繕必要性等を判断するため現地へ赴くことは必要であり必要経費に該当する。
【調査】
Aさんは旅費交通費に関する領収書等を保存しておらず、出張の場所、目的等について具体的に説明できなかった。また、親族の一部は旅費の受領を否定した。
【裁判所の判断(抜粋)】
建物の管理業務等は管理業者に委託されているのであり、あえて多額の旅費交通費をかけて、現地に赴く必要があったと解することはできない(出張回数が極めて多いことも不自然かつ不合理である)。また、領収書等を提出せず、個々の出張の必要性等についても具体的な主張をしていない。当該旅費交通費を必要経費に該当するということはできない。
「理由」と「証拠」が揃っていれば認められた可能性も
・・・今回の事例は本人や親族の交通費が争われた事例でした。
Aさんは本人や親族が遠方の物件を直接見に行くのに要した旅費を「必要経費」である、と主張していましたが、この支出が「否認」されたのは本人のみならず親族への支出が含まれたからでしょうか。
おそらくですが、今回のケースはAさん自身の旅費交通費のみだったとしても「必要経費」と認められるのは難しかったかと思われます。
今回Aさんは物件の管理を管理会社に委託していました。そして、管理状況に特に言及がなかったということは、この管理会社の管理には特段問題はなかったものと思われます。つまり、「Aさん(その他親族)がわざわざ高い交通費を出してまで現地を訪れる必要はなかった」という判断がされたということです。
「物件を自分で確認するのは当然じゃないか」という主張もあると思いますが、今回は現地を訪れる「回数が極めて多い」こと、行き先が遠隔地であることを鑑みての判断だったと思われます。
なにより、実際に現地を訪れた証拠を提出することができなかったことが問題でしょう。しかも、調査において聞き取りを受けた親族とAさんの主張は、実際の金銭の受領の有無で食い違っています。
わざわざ何回も遠隔地に行く必要があるのか?という疑問があるところになんの証拠もないことが追い打ちをかけてしまった形です。
ですが、管理会社さえ入れておけば自分で物件を見る必要がない、というのはいくらなんでも暴論です。では、どうすれば「物件までの旅費」を「必要経費」とすることができるでしょう。裁判所の判断から逆算するに、「物件を見に行く理由」と、「その証拠」をそろえれば「必要経費」として認められた可能性があるといえます。
たとえば、現地へ行った際、物件や周辺環境の写真や記録をとっておき、その情報を管理会社との打ち合わせに使えば、「実際に現場へ行ったこと」や「必要な行為」であったことを主張しやすくなります。
支出の金額についても、ガソリン代のレシートや、移動距離から交通費の額を算出した計算書類を保存しておくことも一つの根拠となるはずです。ただし、あまり頻繁になると今回のように「不自然かつ不合理」と指摘されてしまうかもしれないので注意しないといけません。
重要なのは「誰かに説明すること」を考え、支出の実在性と客観性を確保することです。