今回は、定年後も生活のために働く高齢者の実状を探ります。※本連載では、高齢者が貧困に陥るきっかけとなる無駄な医療を受けずに、人生をまっとうするために知っておくべきことについて、データを基に解説します。

60~64歳の就業率は62.2%、65~69歳でも41.5%に

高齢者の暮らしは、それほど楽なわけではありません。特に、預金額がさほど多くない人の場合は、年金だけでは暮らしていけないと感じ、定年後も働きたいと考える人も少なくありません。

 

昔と違って昨今の60代はまだまだ元気です。特に、年金の支給開始が60歳から65歳に段階的に引き上げられることが決まり、定年年齢と年金の受給開始年齢との間に「空白期間」が生じた2000年以降は、60歳を過ぎても働こうとする人が増えているのです。

 

政府も「高年齢者雇用安定法」を改正して60歳以上の人が働き続けられる環境を整えようとしています。

 

総務省の「労働力調査」によれば、2015年における60~64歳の就業率は62.2%でした。実にこの世代の3人に2人が働いているという計算です。また、65~69歳の就業率も41.5%と高い水準でした。

 

[図表1]60歳以上の就業率

総務省統計局「平成27年労働力調査」より作図
総務省統計局「平成27年労働力調査」より作図

 

働く高齢者は、年々増えています。2005年当時、60~64歳で働いていた人は52.0%でした。しかし、10年後の2015年には60~64歳で62.2%、65~69歳で41.5%と、ともに約10%増えています。70歳以上でも、就業率は右肩上がりになり、働く高齢者は増えているのです。

700万円以上稼いでいる人はわずか12.6%

もちろん、心身ともに健康で社会と接点を持ち、働くことは素晴らしいことです。実際に働いている理由を調べたデータがあります。

 

独立行政法人の高齢・障害・求職者雇用支援機構が公表している「高齢者雇用の現状と人事管理の展望―『高齢者調査』と『経営者・管理職調査』から―」によれば、定年後も同じ会社で働いている「継続雇用者」が仕事をしている理由は、次の通りです。

 

最も多いのが「現在の生活のため」(78.5%)、次いで「老後の生活に備えて」(47.0%)、「健康のため」(35.4%)、「会社や職場から働くことを望まれているから」(32.2%)、「自分の経験や能力を活かしたいから」(31.8%)の順となっており、最も多いのは経済的理由で、老後の生活に不安を感じ、働いている人は非常に多いのです。

 

[図表2]継続雇用者の就業理由(複数回答、n=738)

「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構ニュース」より作図
「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構ニュース」より作図

 

ところが、働く高齢者の待遇は、必ずしもいいとはいえません。同じく「高齢者雇用の現状と人事管理の展望―『高齢者調査』と『経営者・管理職調査』から―」では、継続雇用者の年収の推移も調べています。

 

この調査によれば、50歳代での最高年収と現在の年収も比較しています。50歳年代での最高年収が1000万円を超えていた人が最も多く30.3%もいました。また、年収が700万円以上だった人は、全体の65.5%を占めています。

 

これに対し、60歳以上の人が現在受け取っている年収は、200万~400万円というケースがおよそ45%と多数派です。700万円以上稼いでいる人は、わずかに12.6%しかいません。

 

[図表3]60歳以上の雇用者が現在勤務する会社からの年収と、50歳代の最高年収

「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構ニュース」より作図
「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構ニュース」より作図

 

このように、仮に60歳を過ぎて仕事を続けることができても、期待通りの収入が得られている人は非常に少ないのが現実です。

長寿大国日本と「下流老人」

長寿大国日本と「下流老人」

森 亮太

幻冬舎メディアコンサルティング

日本が超高齢社会に突入し、社会保障費の急膨張が問題になっている昨今、高齢者の中で医療を受けられない「医療難民」、貧窮する「下流老人」が増え続けていることがテレビや新聞、週刊誌などのメディアでしばしば取り上げられ…

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