税金・家賃は「切り詰められない生活費」の代表格
毎月の家計簿は、常に赤字。貯金を取り崩しながら何とか暮らしている高齢者にとって、慢性病にかかったり、思わぬ入院による医療費の支出は大きな痛手となります。こうして生じた経済的な苦境が、さらに「負のスパイラル」につながるケースも少なくありません。
まず問題になるのが、「食」の変化です。生活費のなかには、切り詰められるものと、そうでないものとがあります。例えば、税金や家賃やマンションの管理費など住居に関わる支出は「切り詰められない生活費」の代表格といえるでしょう。
家賃の安い住宅に引っ越すという方法も考えられますが、高齢者の引っ越しは、若い世代に比べて何倍も大変です。引っ越し費用や新たに借りる住宅の敷金・礼金なども必要でかなりまとまったお金が必要です。また、引っ越し作業も大きな負担です。
しかも高齢者にとっていちばん負担になるのは、近隣住民との人間関係が失われることです。高齢者にとって、近所付き合いのつながりはとても重要です。何かトラブルに巻き込まれたり、体調が悪くなったりしたとき、ご近所さんが支えになって危機を脱したという話は、私もよく耳にします。
もし引っ越しをすると、こうしたセイフティネットを失ってしまい、孤立してしまう危険性が高いのです。このようなデメリットを考えると、家賃を安くしたいと思っても、実際に引っ越しに踏み切れる高齢者は、実はそれほど多くないのです。
また、水道光熱費や電話代なども、同様に切り詰めにくい生活費です。これらには基本料金が設定されており、どんなに使用量を抑えても、ある程度の費用がかかってしまい、大きく節約することはできないからです。
困窮のため「食」を切り詰め、健康を害する高齢者
これに対し、切り詰めやすい生活費の代表格が食費です。
前出の「家計調査報告(家計収支編)」によると、夫65歳以上,妻60歳以上の無職夫婦のみ世帯では、食費に月6万2432円を費やしています。医療費などがかさんで経済的に苦しくなったとき、真っ先に削るのが食費の部分でしょう。
食費を削る家庭では、野菜をとらず、米やパン、麺類などで満腹感を得ようとしがちです。その結果、炭水化物を過剰摂取することになります。すると、体内で炭水化物が脂肪に変わり、どうしても肥満になりやすくなるのです。
それが、肝臓に脂肪がたまる「脂肪肝」をもたらし、コレステロール値や血糖値の異常につながり、最後には糖尿病を発症してしまいます。
また、野菜が不足した食事を続けると、他の病気の原因となることもあります。野菜が足りないと繊維質やビタミンが不足して血流が悪くなるため、動脈硬化や高血圧の危険性が高まります。さらに痛風や腎臓病の原因になるともいわれています。
また、意外なことに野菜不足は、精神面にも悪影響を及ぼします。ビタミン類の摂取量が減ると、精神の安定や睡眠の質を左右する脳内物質「セロトニン」をつくりづらくなります。すると、不眠症になったり、うつ病にかかったりするケースもあるのです。