「入院」がきっかけで生活が逼迫するケースは多い
これまで日本の高齢者は、比較的豊かだと考えられてきました。もちろん、十分な老後資金を確保し、悠々自適に過ごしている高齢者もいます。しかし、年金だけの収入でギリギリのところで暮らしを維持している高齢者は、意外なほど多いのが実態です。
そして、このギリギリの暮らしが崩壊し、下流に陥るきっかけになりうるのが、「高額な医療費」なのです。厚生労働省の「平成25年度国民医療費の概況」によると、 2013年度における人口1人当たりの国民医療費は31.5万円でした。
これに対し、65歳以上では72.5万円となっています。もちろん、健康保険に加入していれば国などが負担をしてくれますし、医療費が一定以上に達した場合は高額療養費制度を利用することができます。そのため、72.5万円をまるごと支払う必要はありません。
しかし、病気が重くなって入院したり、慢性化して頻繁に通院しなければならなくなったりした場合は、さらに、追加の費用が必要となり、それがきっかけで、生活が逼迫しはじめるケースは少なくありません。
健康保険適応外の費用はすべて「自己負担」に
入院時に追加でかかる費用として代表的なのが、1~4人の部屋に入院した際にかかる「差額ベッド代」です。差額別ベッド代は健康保険適応外ですので全額自己負担となります。
厚生労働省の中央社会保険医療協議会が公表している「主な選定療養に係る報告状況」によると、差額ベッド代日額のデータをみると、日額5250~8400円支払っている割合がいちばん多く、次に1050~2100円、2100~3150円と続きます。
[図表]全国の差額ベッド代(日額)の割合
差額ベッド代の平均は、1日5918円です。予想外に入院患者の多くが高額な差額ベッド代を支払っていることが分かります。平均値で換算すると、1か月入院すれば、18万円近い差額ベッド代がかかる計算になります。
入院時に必要となる費用は、これだけではありません。入院中の食事代(1日平均780円)も全額が自己負担です。
また、入院中に見るテレビのレンタル代、パジャマなどのレンタル代、お見舞いに来た家族や知人の交通費、入院時に必要な着替えや備品の購入費が必要になるケースもあるでしょう。
保険で認められていない治療で治そうとする場合も、追加の費用が求められます。たとえば未承認の抗がん剤や、最近注目を集めている免疫細胞治療などを受ける場合は、1か月に100万円以上という、非常に高額なコストを自己負担する必要があります。
前でも説明しましたが、健康保険には高額療養費制度があります。そのため、高齢者の医療費は月数万円から十数万円までで免除されています。しかし、ここで紹介したように、健康保険適応外の費用はすべて負担しなければなりません。
また、すべて保険適応の治療でも、透析や胃ろうといった、長期にわたり継続的に治療や器具の交換が必要な疾病の場合、透析であれば月に40万円程度、高額療養費制度を使えば免除されますが、それでも数万円はかかります。胃ろうの場合はさらに負担が重く、月額5万円程度はかかります。
高齢夫婦無職世帯の家計収支からみると、既に6万円以上の赤字にもかかわらず、さらに月数万円の医療費負担が家計に重くのしかかることは明白です。
このように予想外の体調不良・入院によって生じた医療費のために、借金を抱えてしまう患者は、私もよく目にしています。そして、これらがきっかけとなって下流老人へと転落する可能性は、誰にだってあるのです。