どの医療機関にも自由にかかれると思っている日本人
ここまでも説明してきましたが、日本では「国民皆保険制度」が敷かれており、すべての国民が何らかの公的医療保険に加入し、お互いの医療費を支え合っています。だからこそ、誰もがどの医療機関にでもかかれるのは当然のことだと思われています。しかし、海外に目を向けると、必ずしもそうではありません。
アメリカの現状を説明しましょう。アメリカには国民皆保険制度がなく、主に3つの公的医療保険制度が存在していました。
1つ目は、65歳以上の高齢者や障害者などを対象にした「メディケア」。2つ目は、低所得者を対象にした「メディケイド」。そして3つ目が、低所得世帯の子どもを対象にした「児童医療保険」です。これらに加入しているアメリカ人は、2010年当時、合わせて1億人余りだといわれていました。一方、当時のアメリカの全人口は約3.1億人です。
残りの2億人は、自発的に民間医療保険に加入して、我が身を守っています。しかし民間保険は保険料が高額なため、経済的に余裕のない人々のなかには、保険未加入の人が多く、国民の6人に1人が無保険者となっています。
保険に加入していない人が病気になった場合、医療費の負担は驚くほど高額です。
たとえば、日本人の感覚だと、盲腸(虫垂炎)は「簡単な手術で治る病気」です。1週間から10日ほど入院し、10万円ほどの自己負担で済むことが多いでしょう。ところが海外で手術を受けると、数十万円から数百万円の治療費を請求されます。これは、海外では日本の医療保険が使えないからです。
[図表]海外での盲腸手術の総費用
医療保険に加入していないアメリカ人も、海外旅行先で病気をした日本人と同様に、高額な医療費を支払わなければなりません。そこでアメリカには、病気がひどくなるまで通院・入院を我慢する人が後を絶ちません。また、やむを得ず入院した結果、莫大な医療費を負担して破産に追い込まれる人も多いのです。
近い将来、財政赤字のせいで保険制度が「崩壊」!?
現在の日本では、国民皆保険制度がきちんと機能しています。また、高額療養費制度などの仕組みも整備されており、「高額な医療費を請求されて破産」という人はそれほど多くはありません。日本の医療保険制度に対する評価は高く、2000年には世界保健機関(WHO)から日本の医療保険制度は総合点で世界一と評価されました。
しかし、財政赤字が積み重なって危機的な状況となっている日本では、近い将来、保険制度が崩壊する危険性をはらんでいます。
仮に日本の保険制度が崩壊の危機に瀕した場合、医療費の負担がさらに高くなることは避けられません。高齢者といえども、治療費の自己負担割合は高まり、医療費の上限額は引き上げられるでしょう。また、国民健康保険料が値上げされる可能性もあると思います。その結果、アメリカと同様に「保険未加入」の人が増えてしまうかもしれません。