売上は伸びているのに、利益は減少している!?
B社は搬送機と各種の検査機器を製造するメーカーです。地方の山間部に本社工場を構え、中国に製造子会社を有しています。
B社には競合他社と差別化できる特別な製造技術はありませんでしたが、得意先には日本の名だたる製造業が名を連ねていました。B社は大手のメーカーが請け負わないようなニッチな搬送機や各種の検査機器を一括受注することで業容を拡大していたのです。
そんな中で、金融機関を通じて私に事業再生の依頼が入りました。B社の社長や幹部の話を聞くと、売上は順調に伸びているものの、利益は増えるどころか減少しているとのことでした。社長にその理由を聞いても「よく分からない」と言います。
数値管理が徹底できていないと、こうした回答になることはよくあります。そこで、同社のデューデリを実施した結果、様々な問題と課題が見つかりました。ここでは、その一部を記載します。
浮上した「海外製造子会社との取引」の問題点
B社の強みは、顧客から様々な搬送機や検査機器の製作・加工の仕事を一括して請け負うことで、別々の加工先へ発注するよりもトータルで原価の低減に寄与できることです。既存顧客はその強みをよく認識しており、できるだけ一括でB社に発注しようとします。
B社の営業マンは、顧客から受注した仕事を、国内の自社工場で製造するのか、中国の製造子会社で製造するのか、あるいは国内や海外の協力外注先で製造するのかを決定し、仕事を振り分けます。
そのため、B社の営業マンは受注時に各々の搬送機や検査機器の加工費を概算で出し、トータルでの見積額を提示しなければなりませんでした。
その見積もりは、各加工を自社工場も含めた多くの加工先のどこへ出すかを頭で思い描きながら行わなくてはならないので、実はとても難しい仕事です。さらに、ただでさえ難しい見積額の算出に加え、複数の加工先の納期管理も考える必要があったのです。
このような話を聞くにつれ、私は「これは恐ろしく難しい仕事だな……。この仕事を全ての営業マンが利益を残しながらできるのだろうか」と心配になりました。
そこで、管理部の方に「顧客別粗利表や加工先別粗利表などを見せてほしい」とお願いしたのですが、案の定、「そのような資料を作成したことはない」と言われました。
管理資料として作成されているのは、B社本体の月次損益計算書だけでした。中国の製造子会社については、年に一回現地の会計事務所に頼んで決算報告書を作ってもらっているだけで、月次の損益計算書などが本社に送られてきたこともないとのことでした。これでは、さすがにお手上げです。
ですから私は、まず製品群別、加工依頼先別、及び営業マン別の粗利計算書を毎月作成することを管理部に指示し、データをまとめてもらうことにしたのです。もちろん中国の製造子会社も訪問し、現地の経理責任者に趣旨を説明して同様の資料の作成を依頼しました。
実は中国子会社には独自の営業部隊がおり、現地で独自の顧客を有していました。それは日本企業や外国企業の子会社であったり、中国の現地企業であったりします。そのような現地の企業から直接受注を受ける一方、日本の親会社からの加工依頼もこなしていたわけです。
こうして、3カ月経過したところで管理部に依頼した資料を見ると、概ね傾向が分かってきました。まとめると図表のようになります。
[図表]B社の粗利計算書
まず、製品群別粗利表を搬送機と検査機器に大きく分けると、平均では搬送機のほうが利益率は高く32%、検査機器は比較的利益率が低く20%でした。
加工先別粗利表を見ると、中国子会社に加工依頼している製品は粗利率がとても高く40%を超えている一方で、国内外の外注分の粗利率はとても低く、どの加工先でも5%程度でした。
営業マン別の粗利表では、営業の中心である社長の粗利率が群を抜いて高く45%程度あったのですが、他の営業マン10名の粗利率は10%以下、ひどい者はマイナスの粗利になっていたのです。
また、中国子会社の作成したデータを見ると、日本の親会社から依頼された加工については粗利がマイナスでした。現地企業から受注した仕事は粗利が確保できており、粗利率も35%程度ありましたが、日本の親会社からの加工依頼による赤字を補填できるものではありませんでした。
こうして当初の私の予想がデータで示されました。B社の営業はとても難易度の高い仕事であり、社長以外の営業マンは利益が残るような受注ができていないということです。
多くの搬送機や検査機器の製作・加工を一括で請け負い、各々の加工先を選択して分別するという仕事は難易度がとても高いということです。社長一人で稼いだ利益を他の営業マン全員で食い潰しているという、社長からすれば信じたくない事実が判明しました。
この話は次回に続きます。