「溶錬(練)水晶」=普通のガラス
Q:溶錬水晶という人工の水晶が売られていますが、合成水晶の事ですか。
A:溶錬水晶という名前で流通しているものは普通のガラスです。
<解説>
“ようれん”の字には、ご質問にある“溶錬”と、“溶練”という2つのものがある様です。それらの名前で水晶球を販売している複数の業者さんに直接聞いてみました。
それによると、異口同音で、“天然の水晶のかけらを溶かして1つに固めた結晶から磨いたものなので、同じサイズの天然の水晶球と比較すると安価に販売できる”との事でした。
しかし化学的にとらえると、それは考えられない事なので、正式に検査してみると、人工の水晶(合成水晶のこと)ではなく人工のガラスでした。水晶を溶かす事はできますが、その様なものは正式に『石英ガラス(シリカ・ガラス)』と呼んで、理化学用の高価なガラス器具などが作られています。
溶錬(溶練)水晶と呼ばれて販売されているものを分析した限りでは、水晶だけを原料に使って溶解した石英ガラスではなく、他の成分を添加して作られたガラスでした。水晶を溶かしたというのはガラスの主成分となる珪酸分を強調した表現なのでしょうが、水晶を溶かして1つに固めたという表現は誤りです。また、結晶というのも誤りです。
とはいうものの、直径2~3cmの玉は別としても、10~15cmもの大径の玉を磨き出せるガラスの塊を、気泡や濁りもなく作る技術は感心できるものです。しかしそれでもやはりただのガラスなのです。
水晶を溶かすと「水晶の構造」が失われ、ガラス化
<かんたん宝石学>
ルビーやサファイアなどが属すコランダムの結晶は、溶かしても冷えると元の構造に戻るという特性を持っていますが、それは稀な事です。
水晶(石英)の結晶は、いったん溶かしてしまうと、冷えて固まっても水晶の構造は失われて無秩序状態となり、元の構造には戻らずガラスになってしまうのです。これを[非結晶amorphous(アモルファス)]と呼んでいます。
水晶は加熱して1713℃になると熔融しますが、その結果出来たガラスは、コップや窓ガラスを作る通常のガラスよりも耐熱性や熱による膨張係数が小さいという特性を持っています。その性質を利用してビーカーや試験管等の器具が作られていますが、通常のガラス器具よりもかなり高価です。
通常のガラスを作るには、原料の溶融温度を下げるという目的もあって、珪酸分に様ざまな成分を添加して数タイプのものが作られています。溶錬水晶の名前で流通しているガラスを分析してみると、その多くは『ソーダ(Na)石灰(Ca)ガラス』である事がわかりました。