日本では「地学に関する教育」が十分でない
Q:知らない宝石の名前になると、“それは水晶の一種?”って聞く人が多いのはなぜ?
A:それは水晶の名前が広く知られているからです。水晶はもっとも身近な宝石なのです。
<解説>
筆者の研究所でもご質問の様な事をたびたび経験しています。鑑別書を見た方が、それが初めて聞く名前だった時、“これはどういう石、水晶の一種ですか。水晶とはどこが違うのですか?”と聞かれる事があります。
こういう流れになる原因はたった一つです。簡単に言ってしまえば、鉱物では水晶が、宝石ではダイアモンドの名前が広く知られていると言う事なのです。
日本では、宝石や鉱物の勉強が一般教養の学問として存在しません。ダイアモンドは供給国側が半世紀以上をかけて日本人の間にその名前を浸透させましたが、水晶の名前は、小学校の理科の記憶として日本人の脳裏にかろうじて残っている程度です。
県の花や県の鳥というものがある様に、日本の国を代表する宝石鉱物があります。水晶は日本の国石に指定されていますが(2016年9月に日本の国石は「ヒスイ」となりました)、おそらく多くの人はその事を知らないでしょう。
しかし山梨県の宝石が水晶だと言えばある程度の人はうなずくはずです。山梨は葡萄と水晶で有名な県ですが、それは地場産業として内外に啓蒙を行なってきたからです。
日本に国石があるという事さえ知られていないのは、近年日本から地学の教育が消えてしまったからなのです。そんな中で宝石ブームが起こっても“それは水晶の一種ですか”となるのは仕方のない事なのかも知れません。
水晶の正式名称は「石英(Quartz)」
<かんたん宝石学>
水晶は地球上で最も存在量の多い元素である酸素と珪素が合体して結晶したものです。その簡単な成分の為に、地球上では最も広範囲に産出する鉱物として知られています。誰でもが水晶を一度は見た事や、道路の敷石や川原の石の割れ目に小さな結晶を見つけた事もあるでしょう。水晶はその鋭い割れ口や美しさを生かして、古代から石器やビーズなどの装飾品が作られてきました。
スイスのアルプスは、良質の水晶を産する事で古代から知られていました。そこは万年氷に囲まれた場所だったので、人々は岩に付いた凍った水が石となったと考えたのです。ギリシア語で氷を“クリスタロス”と言う事から、水晶の事を『ロック・クリスタルRockcrystal』と呼んだのです。
同じ頃、中国ではそれを『水精』と呼びました。やはり“水が結晶したもの”という意味です。
日本でも明治時代以前には水精と呼んでいましたが、明治以降は水晶という名前に変りました。しかしその名前は正式な鉱物名称ではありません。正式には『石英Quartz』で、水晶は六角柱状の結晶を見せるものに対する亜種名なのです。