ジルコニアとジルコンはまったく違う石
Q:ジルコニアっていう合成宝石は、ジルコンの合成石ではないのですか。
A:ジルコンとはまったく違うもので、「二酸化ジルコニウム」のことをいう商業名です。
<解説>
正しくは『キュービック・ジルコニア Cubiczirconia』といいます。天然版が存在しない為、狭義には[人工結晶 artificialcrystal]に分類しますが、広義に於いて[合成結晶syntheticcrystal]と呼ばれています。
この結晶が初めて日本の宝石業界に入ってきた時、誤って「合成ジルコン」と呼ぶ業者が多くいました。ジルコニアという名称がほとんど知られていなかった事から、身近で良く知っている宝石ジルコン Zirconの合成版だと思い込んだのです。
キュービックとは“立方体の”という意味を持ちますが、宝石界では“等軸晶系の”という意味があるので、正確には「等軸晶系の結晶構造を持つ二酸化ジルコニウム」という事になります。1977年に旧ソビエトで製造されたものですが、それとほぼ同時にアメリカでも合成されました。その後スイスや台湾でも製造される等、急速度で生産量を上げていきました。現在では中国で大量に製造されています。
あらゆる合成石の中でこれほど大量に造られる様になったのは、カットした石の外観が、それまで知られていたどの合成石よりもっともダイアモンドに似ていたからです。加えて製造時に生じる使えない部分を再溶解してリサイクルできるという製造システムが製造のコストを下げ、みるみる内に価格が下がり、またたくまに世界中の宝石市場に広がりました。
ジルコニアの「亜種」とも呼ぶべきものが多く流通
<かんたん宝石学>
キュービック・ジルコニアの化学成分は[ZrO2]で表され、ジルコニウムと酸素が化合したもので、ジルコンとはまったくの別ものです。ジルコンの方は[ZrSiO4]という成分で、ジルコニウムは珪酸(SiO2)と結合していて、結晶の構造もまったく異なります。
二酸化ジルコニウムを成分とする鉱物は、天然では単斜晶系の『バデレイアイトBaddeleyite(バデレイ石)』が知られています。
キュービック・ジルコニアの構造を持つものは天然には発見されていません。原料の融点が2715℃と極端に高い為に他の宝石の合成装置では育成できず、その為の専用の合成方法が当時のソビエトで発明されました。
ジルコニアは常温では単斜晶系ですが、温度が上がるにつれて、結晶の構造が正方晶系、等軸晶系と変化するという性質があります。ダイアモンドのイミテーションは等軸晶系でないとだめですから、そのままの状態で室温に戻さなければなりません。
そこで原料の中にイットリウム(Y)やハフニウム(Hf)の酸化物を安定剤として混入しておく方法が考案されました。その新しい結晶は現在では多くの国で造られ、種々の金属元素を不純物として加えて、赤、黄、橙、緑、青、ピンクというカラフルな結晶が造られています。
しかし今では原料のリサイクルから、安定剤の成分が高濃度になってしまったジルコニアの亜種とも呼ぶべきものが多く流通しているという現状を招いています。