英国で相次ぐ「料金請求の遅れ」に起因する過払い
小売供給市場が全面自由化に移行すると、各社は、競い合って利用者を惹きつけるために、多様な料金メニューを作り出す。
ガスや通信とのセット割引、電子マネーとの提携、スーパーや百貨店でのポイント加算など、他業界との協力関係が深まる。スイッチングすれば、割安になるというイメージはあるものの、実際に、どの程度、電気料金が下がっているのか、その判断は意外と難しい。
複数企業がコラボする場合には、カスタマーセンターをどこに置き、緊急時に、どのように対応するのかについても曖昧になりがちである。このような基本的な業務ですら、疎かにされる危険性が潜んでいる。
英国では、小売供給会社による料金請求の遅れやミスが原因で、利用者が過大な支払いをさせられるというトラブルが起きているが、規制当局の監視も強化されつつある。2015年11月にOFGEMは、スマートメーターの普及にあたり、産業用需要家に差別的な扱いをしたエーオンに対して、700万ポンドの支払いを命じた。
また同年12月には、家庭用需要家を公平に扱わなかった理由で、小売供給会社のエヌパワーに2600万ポンドの罰金を科すことを決めた。同社はビッグ6のひとつで、親会社はドイツのRWEである。自由化以降、ライセンスに反する行為はいくつか起きたが、これが最悪のケースとみなされている。
OFGEMの調査によると、エヌパワーの違反は複数に及ぶが、最も焦点があてられたのは、2013年8月から2014年12月までの間に起きた請求ミスで、50万人以上の顧客が被害を受けた。
2011年にITシステムが新たに導入されたにもかかわらず、請求書作成の大幅な遅れや請求金額の記載ミスが発生した。さらに厳しく批判されたのは、多数の利用者から算定根拠やプロセスに関する問い合わせがあったにもかかわらず、決められた日数内に対応しなかった点である。
過去に遡って請求する「バックビル」や「キャッチアップビル」と呼ばれる行為は、支払い能力に限界のある家庭用需要家のみならず、多額のキャッシュフローを動かせない零細企業に多大な打撃を与える可能性がある。
以下の図表は、2014年第4四半期における零細企業に関する「バックビリング」のデータだが、ビッグ6に属す4社が引き起こした件数が異常に多い点がわかる。
[図表]零細企業に対するバックビリング
利用者の視点に立って助言する「独立的組織」が必要
OFGEMは、小売事業者に対して、1年以上前の料金を請求することを禁止する方針をとっている。
2015年に、事業者団体のエナジーUKは、ビッグ6と協力して、正確な請求書作成に関する行動規範を策定したほか、OFGEM、エナジーUK、コンシューマーフォーカスも共同で、「バックビリング」に関するガイドラインを公表した。さらに、シチズンズアドバイスやオンブズマンサービスなど、消費者保護団体も公共料金に関する不満の受理や適切な助言を行っている。
2014年に、オンブズマンが取り扱った件数は21万6千件にも達するが、その約65%の14万件がエネルギー関連の相談であった。競争が進展しているなかで、小売事業者は、コスト削減を理由に紙ベースの請求書を送付しなくなっている。
需要家は、ウェブサイトでチェックできるのだが、定期的に確認する人は少ない。スイッチングしただけで満足している利用者や、契約タイプを忘れてしまう人も多いのが実態である。
わが国でも、スマートフォンやタブレットの通信料金が過大になっている点が社会問題として取り上げられた。電力自由化で各社から発表された料金プランがメディアで注目を浴びているが、専門家でも、どのように比較すればよいのか戸惑うようなケースもある。
各家庭には、法人需要家のようにエネルギー購入のプロがいるわけではない。通信の「デジタルディバイド」と同様に、「エナジーディバイド」現象が起こらないようにするため、利用者の視点に立って助言のできる独立的組織を設置することが急務だろう。