電力料金高騰で低所得者層への支援措置が急務に
1998年から小売全面自由化を実施した英国では、一時的に料金は下がったが、2004年以降、燃料費高騰と再生可能エネルギーの負担金などにより値上げが続き、利用者料金が上昇し、政府も、その対応に苦慮している。
自由化による料金低下効果は、さほど大きくなく、「困惑独占」や「バックビリング」などのデメリットを伴うことが明白になってきた。さらに、英国が直面している課題は、低所得者層への支援措置である。
英国では、所得に占める光熱費の比率が平均的な家庭よりも高い世帯を「フュエルポバティ」と呼んでいる。
欧州諸国では、「エナジーポバティ」という用語も使われるが、「エネルギー困窮者」という意味は同じである。2014年のデータによると、その数は、イングランド・ウェールズで238万世帯、地域世帯数の10.6%にあたる。
スコットランドでは、84万5千世帯であり、比率は35%にまで跳ね上がる。寒冷地のスコットランドでは、暖房費を支払えないために、屋内で凍死者が出ることが社会問題となっている。
自由化による小売料金値上げは、年金生活者など所得が増えない利用者を窮地に追い込む危険性もあるために、何らかの対策が必要である。
これまで政府は、家屋の断熱工事やボイラー交換によって、熱効率改善を促す点にも力を注いできたほか、小売事業者各社にスマートメーターの全戸設置を義務付け、「コネクティッド・ホーム」と呼ばれる情報通信技術を活かしたエネルギー利用の効率化を推進してきた。
具体的には、低炭素化と省エネ技術を重視した「グリーンディール」や「エナジーカンパニーオブリゲーション」といった政策パッケージが実施されている。
各自治体は、独自に目標を定めて、フュエルポバティの低下に努めている。スコットランドでは、「家屋エネルギー効率化プログラム」に基づく対策のほか、国民保健サービス機構(NHS)などの組織との協力も進めてきた。
スコットランド政府は、フュエルポバティの対策に多額の資金を投入してきたが、財源確保に限界があることを認めて、2015年末には、中央政府の対策を充実させるべきだとの見解を公表した。
それを受けて現在は、「ウィンターフュエルペイメント」や「コールドウェザーペイメント」などの名称で、複数の支援制度が設けられている。しかし、これらには、年金生活者に限定する条件や、一定の気温が続いたときにだけ支払うなどの制約が付けられているために、フュエルポバティを減少させる直接効果はない。
電力自由化と合わせて、最低生活の保障福祉措置が必要
料金支払いの面に注目すると、英国では、現金・クレジットまたは銀行口座引落しによって事後的に支払うのが一般的であるが、それらに加えて、貯蓄額の少ない低所得者層を保護するために、プリペイメント方式が整備されている。
これは、特別な機器を設置し、前払いでカードやコインを購入すれば、電力・ガスを上限なしで利用できるものである。以下の図表1から明らかなように、ビッグ6のすべては、機器の設置と取り外しについての費用はとっていない。
[図表1]プリペイメント機器の設置・取り外し費用
支払い方法別で料金水準を見ると、以下の図表2のとおり、プリペイメントは、高く設定されている。現実には、現金・クレジットや銀行口座引落しを使う利用者のなかにも低所得者層は含まれるが、基本的にスイッチングが可能である。
[図表2]支払い方法別 最低料金の推移
それに対して、プリペイメントの需要家には、スイッチングの機会がないので、割高な料金に歯止めをかける必要があった。
政府は、その点を改善する目的から、2017年からプリペイメント方式だけを対象にプライスキャップを導入し、スマートメーターの普及が見込まれる2020年まで継続する計画を打ち出した。
電力自由化は、発電市場において、再生可能エネルギーを中心に電源多様化を促す点で魅力がある。さらに、送配電線をスマートグリッドとして充実させれば、環境政策上のプラス効果も期待できる。
しかし、小売供給市場への料金転嫁により、低所得者層の負担は実質的に重くなる。料金規制が撤廃されると高齢者のみならず、低収入の若年者層や学生に与える影響も大きい。わが国の住宅は、英国ほど老朽化していないが、フュエルポバティのリスクを避けるためには、最低生活を保障する福祉的な措置を組み合わせる必要があるだろう。