本連載は、関西学院大学経済学部教授の野村宗訓氏と、兵庫県立大学経済学部教授の草薙真一氏の共著、『電力・ガス自由化の真実』(エネルギーフォーラム)の中から一部を抜粋し、英国の電力料金が電力小売自由化によってどのように変動したのかを見ていきます。

「ビッグ6」の寡占状態にある英国電力小売市場

英国の小売供給部門は、1998年から全面自由化へ移行し、事業者間で競争を展開する状況にある。図表1のように、小売供給会社の母体は、旧地域配電14社であるが、物理的ネットワークを保有する配電会社と区別され、再編成を経て6社に統合された。

 

[図表1]英国小売供給会社ビッグ6の変遷

 

新たな事業者数は、参入と退出があるために流動的であるが、2016年時点で37社に達している。しかし、実質的には、発電と小売供給の両部門を持っているビッグ6(セントリカ・ブリティッシュガス、EDFエナジー、エーオン、RWE・エヌパワー、スコティッシュパワー、SSE)の寡占状態にある。

 

2016年3月におけるビッグ6の電力とガスの家庭用のシェアは、図表2と図表3のとおり、85%を超える圧倒的な高さを維持している。

 

[図表2]電力小売供給市場シェア

 

[図表3]ガス小売供給市場シェア

 

新規参入者のシェアは近年、増加してきたが、いずれの市場についても各社別では4%以下であり、ビッグ6と対等な競争を展開するまでには成長していない。小売供給の料金設定には規制がないため、事業者が自由に料金メニューを作ることができる。各社は通常、電力とガスを同時に供給する契約「デュアルフュエル」を主力商品としている。

 

需要家が小売供給会社を変更することを「スイッチング」と呼ぶが、英国では、電力とガスの両方について、月別と四半期別のデータが政府から公表されている。2011年からのスイッチング数とスイッチング率は、図表4のとおりである。

 

[図表4]電力・ガス四半期別スイッチング率

 

各四半期で見ると、電力、ガスのどちらについても、2~4%の需要家が供給先を変更していることがわかる。これは、異なる小売供給会社へのシフトを表しているが、同じ供給元で契約内容を変更した需要家を含めると、この値はより大きくなる。

スイッチング率が高い=競争的な市場、とは限らない

しばしば、スイッチング率が市場における競争状態を示す指標であると捉えられるが、そこには、いくつかの問題点も含まれている。

 

例えば、スイッチングしている需要家が同一主体であるのか、異なる主体であるのかは、明らかにはできない。同一主体が頻繁なスイッチングをしている場合は「チャーン」と呼ばれ、その大きさをもって競争的な市場になっているとは言い難い。

 

また、短期間にスイッチングを繰り返すことが絶賛できるわけでもない。そのような行為は、小売供給会社の料金請求に煩雑な事務手続きが伴い、コスト負担が大きくなる。次節で触れるが、請求ミスも起きやすくなる点で、現実に利用者への悪影響も起きている。

電力・ガス自由化の真実

電力・ガス自由化の真実

野村 宗訓,草薙 真一

エネルギーフォーラム

自由化によって巻き起こる、電力・ガスなどのエネルギー競争…この争いにメリットはあるのでしょうか? 本書では、エネルギー界の双璧が、その恩恵と弊害を検証します。

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