「天然ガス」の生産減少が理由の一つ
英国の小売料金は、以下の図表1から明らかなように、2000年代初めまでは低下傾向にあったが、2004年以降は値上げが続いている。
[図表1]英国の標準ガス・電気料金動向(単位:£)
その理由のひとつとして、北海油田の埋蔵量に限界があり、天然ガスの生産が減少し、2004年からは純輸入国に転じた点が挙げられる。
所有分離と全面自由化を実施したにもかかわらず、標準的な小売料金は上昇している。新規参入と料金設定の自由化は制度的に認められていたが、燃料費が最終需要家の料金に影響を与えるので、値上げは回避できなかった。ここから得られる示唆は、自由化後も料金を抑制する措置が不可欠であるという点である。
ガス電力市場庁(OFGEM)が公表している「デュアルフュエル」の料金(2016年8月)について内訳を見ると、次のようになる。
卸費用43.43%、送配電費用23.98%、環境・社会的義務費用7.35%、その他直接費用0.63%、経常費用15.80%、小売供給税引き前利益4.04%、付加価値税4.76%。
卸費用は43%を占めるが、それは、小売供給会社がコントロールできるものではない。垂直統合型のビッグ6が発電部門と小売部門の間で、コスト配分と料金設定を自社に有利に操作しているという批判もあった。
しかし、競争政策当局(CMA)は、2016年6月に公表した報告書『エネルギー市場調査最終報告書』において、垂直統合型の経営が合理的な行動をとることができる点を評価する見解を示した。
2004年以降のビッグ6の値上げを見ると、以下の図表2のようになる。6社がほぼ同時期に、同程度の値上げを繰り返している点が大きな特徴である。
[図表2]大手6社のデュアルフュエル料金動向(単位:£)
これは、上流部門の燃料費が反映されているので、当然の結果であるという解釈もできる。自由化以降、各社はシェア維持のために、次々と付加的なサービスの提供や自社への切り替えの際のボーナス、機器代金の補助などによって、顧客の囲い込みを進めてきた。
それらの複雑化したメニューは、需要家の選択肢を増やしているという点で評価できるが、実際に冷静な判断に基づくスイッチングを促したどうかについては疑問が残る。
ガス電力市場庁は政府に料金の改定等を求めたが…
競争政策当局が注目しているのは、「コンフューゾポリー(confusopoly)」という概念である。この用語は、「困惑独占」または「混乱独占」と訳すことができるが、米国の漫画家スコット・アダムスによる造語であり、1997年に出版された『ディルバート・フューチャー』という書物の中で、既に紹介されていた。
通信や金融、エネルギー業界の企業がセットメニューなどで料金体系を意図的にわかりにくくして、顧客に商品の比較を困難にさせる点を指摘していた。企業間の共謀がない場合でも、結果的に利用者の選択を制限し、スイッチングを妨げる効果を持つ点で問題がある。
料金設定の複雑性を調査してきたOFGEMは、2014年に「消費者のためのより一層シンプルで、クリアで、フェアーなエネルギー市場」という文書を公表し、小売事業者に対して、従来以上にわかりやすい料金メニュー、正確な情報、差別のない処遇を求めた。料金規制が撤廃されているにもかかわらず、政府は、民間事業者にメニューを減らすなどの指導を加えている。
2016年段階の主要小売供給会社が提供している実際のメニュー例は、以下の図表3のとおりである。簡素なメニューを作るようにとの指示が出されたあとでも、依然としてさまざまな条件が盛り込まれているので、一見して、どのメニューが割安なのかは即座に判断できない。
同一企業から異なる類似商品も出されているのもあれば、同一メニューでも異なる料金が提示されているケースもある。事業者自らが料金を凍結する商品を売り出し、顧客を囲い込む行動もとられている。
このように、小売全面自由化が実現されたものの、まだ「困惑独占」が残っているばかりではなく、競争原理と矛盾するような政策と戦略が展開されているのが実情である。
[図表3]小売供給会社料金プラン例