施主の目的と住宅メーカーの目的には大きな乖離が・・・
施工中、お客様が現場に来ることがあります。ところが、工務店側はそれを嬉しく思っていません。来られると”やっかいだ”としか思っていません。完成してから見てほしい。途中段階を見てほしくない。それは、社長から現場監督、そして職人まで皆同じ気持ちだったと思います。気持ちがそうであれば、当然、現場はそうした空気を発します。なぜそうなのか。施主とは関わりたくなかったのです。
つまり、それは「建てておしまい」という希薄な関係でした。下請け当時、私自身も3分の1のお客様とは最初から最後まで一度も会ったことがなかったほどです。それでは当然、関係づくりは始まりません。今にして思えば、本当に何も残らない、非常に虚しい仕事であったわけですが、当時はその方が面倒がなくていいとすら感じていたのです。
もちろん、たとえ私たち工務店のスタンスがそうであっても、ハウスメーカーがしっかりとお客様の方を向いていれば、問題はないはずです。ところが、ハウスメーカーもそうではありませんでした。
ハウスメーカーは住宅業界の中にあって、建築会社ではなく、販売会社の位置づけです。ですからハウスメーカーにとって重要なのは工務店以上に数であり、売上げであり、決算数字であるわけです。売る、契約を取ることが目的です。そのために、当然すべての仕組みや慣習は契約を取るために出来上がっています。
しかし、もちろんお客様は契約のために「家」を建てるわけではありません。つまり、ハウスメーカーやその下請け工務店の目的と、お客様=施主の目的は全く違うところにあるのです。
設備を少しいじっただけで多額の追加料金が発生!?
繰り返しますが、ハウスメーカーが求めるのは数であり、効率であり、利益です。そのため、お客様の目的や課題に踏み込めば踏み込むほど、効率は悪くなり、結果、利益や数も減ってしまうかもしれません。
組織が大きくなればなるほど、一般的には小回りが利かなくなります。個々のお客様の目的はそれぞれ違うわけですから、その一つひとつに合わせることは難しくなります。会社の用意した枠にはめて、マニュアル通りに動いてもらわなくてはなりません。そこでもてはやされるキーワードは、”最大公約数”です。
本連載の第1回でお伝えしたように、その結果、用意されているのは、注文住宅とはいっても、それは名ばかりのセミオーダー、あるいはイージーオーダーの家づくりです。家のコンセプトやデザイン、間取りや設備も、何パターンかに決められていて、それぞれの組み合わせを選んでいきます。設備を少しいじろうとするだけでも、多額の追加料金が発生するケースも少なくありません。
もちろん、仕上がりが見える、ブランドの安心感がある、値段もある範囲で決まっているわけですから、間取りや設備のパターンが気に入り納得出来るのであれば、それはそれで悪くはない買い物です。しかし、現実は多くの妥協が生まれる場合が多いのです。その結果クレームにつながることもあります。大金を使って満足していないのでは、哀しいだけです。
いずれにしても、私たちも環境に慣れきって、トラブルにならないように、お客様から遠のいていたのです。何か違和感を持ったとしても、「この業界はそんなものだ」と達観するしかなかったのです。
私は、そうした感覚で家づくりを11年間もやってきてしまいました。300棟以上の住宅を建ててきました。大きな間違いであったと感じていますし、罪ですらあったと後悔しています。