なぜ階段をリビングにしつらえるようになったのか?
昔と違って今は、2階へ上がる階段は玄関脇ではなく、リビングの中にしつらえるのが普通になりました。子どもがいて、子ども部屋が2階にある場合は特にそうです。顔を合わせずに勝手に出かけ、勝手に帰ってきて自分の部屋にこもってしまうようになるのを嫌うからです。「いってらっしゃい」「いってきます」、「ただいま」「おかえりなさい」と挨拶が絶えないことは大切だと思います。
また、これにはもう一つの理由があります。土地が高いので、坪数を無駄に出来ない。そのため、一般的に少なくしたいと思うのが廊下なのです。階段は上下を結ぶものですからなくてはなりませんが、廊下は出来るだけなくして、その分、部屋を広くしたいと思うわけです。ですから、玄関を入って出来るだけすぐにリビングにしたい。そうなれば必然的に階段もリビングの中になるというわけです。面積の有効活用、一石二鳥です。
しかし二世帯住宅の場合は、考え方が少し違います。おじいちゃん、おばあちゃんは早く起きて、早く寝ます。働き盛りの息子や孫はそんなに早く帰ってこないですし、早く寝ることもありません。お風呂に入るのも遅い時間だったりします。そうした生活時間帯のギャップを考慮して同居する場合は、お互いの動線が出来るだけ被らないようにするのがいいでしょう。それこそ廊下やドアで世帯ごとのテリトリーを分ける。玄関も二つ作って、1階と2階を完全に分離する方法もありますが、玄関共有型の場合は工夫が必要です。どこまで共有部分を作るのかも考えどころです。
10年後、20年後の家族の姿を想像してみる
私も数年前に、完全同居型の「家」を建てました。風呂やキッチン、トイレといった設備は一つだけです。何を考えて建てたかというと、10年後、あるいは20年後の家族の姿を想像しました。
縁起でもない話をすることになるのですが、両親は高齢です。10年後か20年後には、おそらく家族構成が変わります。そうしたときに、完全二世帯住宅や、二重の設備はライフスタイルの足かせになります。重装備で無駄になってしまうからです。そのことを考えて、私は完全同居型の「家」にしました。しかし、それにはそれで考慮すべき点があります。
家族構成が変わる前に、両親の足腰が弱って、上下の動線、つまり階段はまるで山登りに近いものになるかもしれません。そうなれば、物理的に両親は1階だけで暮らすことにもなってしまいます。ですからそのための手立てが必要です。そこで、設備を二重にするのをやめて、その代わりにホームエレベーターを設置しました。それも一つの解答です。
介護住宅は今後、ますます重要な観点となりますが、逆に10年後、20年後、30年後を想定して、今から介護住宅にするというのも勧めにくい話です。介護されるべき人間のいない介護住宅は、おそらく使い勝手が悪いからです。そうした意味でも、理想に合った二世帯住宅を造るのは簡単ではないのですが、逆に言えば、注文住宅ならではの可能性がそこに広がるのです。よくよく考えて、手立てを講じることができます。