伝統的製品への固執が事業の存続を危うくする場合も
長寿型ファミリー企業(創業100年以上の企業)では、創業以来の製品が存在することがあります。このような製品は長年蓄積された伝統を保有しており、企業の象徴のような位置づけになっている場合も少なくありません。
他方、時代の変化に伴って、このような製品は、コスト倒れになってしまっている場合もあります。さらに、伝統的製品に固執するが故に、事業の存続自体を危ぶませてしまうことにも繋がりかねません。その際に、考える視点を与えてくれるのが製品ライフサイクル説です。
以前の連載で人生のライフサイクルと事業承継との関係について考えました。製品ライフサイクル説とは、製品にも人と同様に寿命があって、製品の誕生から廃棄までのステージを示すものです。製品ライフサイクルは、導入期、成長期、成熟期、衰退期の四つの段階で構成されています。
第一の導入期とは、技術開発や研究開発の段階をへて製品がいよいよ市場に登場する段階のことを示します。導入期では、特に研究開発等の先行投資がなされていることから、売上高は上がりますが利益は赤字という状態もあります。
第二の成長期とは、製品の消費者への認知度が高まり、売上高や利益が急激に上昇する時期のことを示します。この段階では市場が急拡大する段階でもあり、競合企業の参入も多く、競争的な広告を行う等費用がかさむ段階でもあります。
第三の成熟期とは、売上高や利益の上昇が落ち着いてくる段階のことです。売上高や利益が頭打ちとなり、製品によっては減少の傾向を示す段階です。
第四の衰退期とは、文字通り、売上高や利益の減少傾向が鮮明になってくる段階です。
[図表]製品ライフサイクル説における後継者の検討課題
採算が合わない製品は、製品ライフサイクルから見直す
次に、冒頭で述べた長寿型ファミリー企業における製品戦略を考えてみることにしましょう。
これまでの連載で述べてきた通り、長期的な事業継続には、伝統の継承とイノベーションが重要なファクターとなることは疑う余地がありません。仮に、採算が合わない創業以来の製品が存在する場合は、製品ライフサイクル説の観点から見直してみることも必要でしょう。
売上高や利益の減少傾向が顕著に現れている場合、撤退を検討する必要があります。または、創業以来の製品からの撤退によって、自社の伝統の象徴としての機能が失われてしまう可能性がある場合は、新たな用途開発等を検討するべきでしょう。
他方、イノベーションの観点からは、次の自社の主軸となりうる新製品を開発に向けた取り組みも重要となります。或いは、先の創業以来の製品を国内市場だけではなく、海外市場に展開していく新市場開拓も一つの方法かもしれません。
代々の後継者が先代世代が築き上げてきた伝統を重視しつつ、経営環境の変化に応じた新たな製品の提案を行う上で、製品ライフサイクル説は重要な示唆を与えてくれるでしょう。
<参考文献>
Kotler, P. and Keller, K. L. (2006) “Marketing Management, Twelfth Edition”, Prentice-Hall.
落合康裕(2016)『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』白桃書房.