EU各国の経済格差が大きな問題となる中で・・・
政治的なイベントを無難に乗り越えたことで、独仏連携に期待が高まることは前回に述べたとおりである。フランスでは、マクロン大統領が率いる仏新党「共和国前進」が過半数の議席を確保して圧勝。連邦議会選挙を9月に控えるドイツでも、世論調査によれば、反EUの極端なポピュリズムや極右勢力は昨年の勢いに翳りが見られる。
メルケル首相率いる保守系与党連合内では、EU圏内の内需不足を問題視するメルケル首相の最近の発言などからは、選挙後の政権運営もにらんで、ドイツ経済一人勝ちの負の側面に対する認識の高まりと、ドイツとその他加盟国との経済格差拡大によってEUに対する不満が強まることへの警戒感がうかがわれる。
しかし、EU内での本質的な課題は、経済面にある。EU内で、ドイツが経済力で突出した力を持つ中で、各国の経済格差は、むしろ一層拡大してきていることにある。この格差の解消は、根の深い問題で、独仏連携により勢いづく改革推進勢力の行く手を阻むものである。
欧州委員会が予測する2017年のユーロ圏の域内総生産(GDP)伸び率は1.7%である。欧州中央銀行(ECB)が実施した量的な緩和と歴史的な低金利の下で消費者と企業の景況感は改善してきている。EU経済全体としては、緩やかな雇用改善が消費と投資の回復を後押しする形で、足取りがしっかりとし始めてきた。国政レベルの選挙で、極右勢力が台頭する結果ともならず、高まっていた不確実性への懸念も後退し始めている模様で、これもユーロ圏内の景気を下支えするだろう。
また、原油価格上昇で産油国の需要が持ち直し、またトランプ次期大統領の景気刺激策で米国の需要拡大に対する期待があることは、ユーロ圏の輸出回復の追い風ともなろう。こうしたことから、経済成長見込みは、従来の予想(1.6%)からも、やや上向きに修正されている。ただ、冷静に見れば、1.7%成長という数字は、2015年の2.0%、2016年の1.8%の実績値をいずれも下回る水準にとどまっていることもひとつの大きな事実である。
ECBが金融緩和政策を展開するという見方も
ユーロ圏の失業率は引き続き高水準に留まるとの予想だが、2017年は9.4%と、2016年の10.0%からは大幅に低下すると見込まれている。2018年にはさらに8.9%まで改善するとして、従来の予想から大幅に引き下げている。2018年は、EU全体で、2008年以降最も低い水準に達する見込みで、失業率の低下基調は続いているが、多くの国では、依然高い水準にあり、金融危機前の水準までには、まだ回復していない。
雇用の創出は、内需の拡大、比較的緩やかな賃金の上昇、構造改革等によってもたらされている。実際に8.9%まで失業率が下がれば、2009年初め以来の低い水準となる。だがイタリア、スペイン、キプロス、ギリシャの失業率は引き続き平均を大きく上回る見込みで、経済的なファンダメンタルズでの南北格差が解消する目処は立っていない。
物価は、主にベース効果と原油価格の上昇によってここ数か月間で大きく上昇してきている。消費者物価上昇率は2016年の+0.2%から上昇して、2017年は1.6%にまで達するとの予想である。欧州中央銀行(ECB)も、2017年の同率を1.7%と見込んでおり、2%という目線に近づいていることはやや注意が必要である。しかし、生鮮食品とエネルギーを除くコアインフレ率は、相対的に安定しており、金融危機前の平均的な水準よりも、まだ低く留まっている。インフレ率は、2017年第1四半期をピークに、その後は原油価格上昇の影響が薄れ、2018年にかけて徐々に低下していく見込みである。
一部には、インフレ率の上昇を理由に、ECBが金融緩和政策を展開し、テーパリングに移行するとの観測も出始めている。しかし、EU圏全体の成長率やインフレ率が改善しているとしても、各国を見た場合のばらつきは大きいという点は、見過ごされてはならないだろう。また、EU圏経済の主要なリスクとしては、英国のEU離脱交渉の進展具合や苦境に陥っている欧州の銀行セクターの経営状況も不安視されるところである。
EU圏外では、米国の経済・通商政策を巡る不透明感、中国の経済調整、東アジアや中東での地政学的な緊張がリスク要因として挙げられる。こうした中で、経済・金融政策はどう展開するだろうか?
金融政策と相場への影響については、次回みていきたい。