EU統合にフランスの未来を見出すマクロン大統領
2016年6月の英国EU離脱を決定した国民投票と、同年11月のトランプ米大統領の誕生をトリガーとする保護主義的な圧力の高まりは、国際社会の対立と、貿易や対外投資の減少による世界経済の減速懸念を強めてきた。2017年に入り、欧州各国で国政レベルの選挙が続いたことから、一連の選挙結果が、非常に注目を集めてきた。
5月にフランスでマクロン大統領が選出されると、この懸念は薄らいだ。そして、6月のフランス国民議会(下院)選挙の決戦投票で、マクロン新仏大統領率いる新党「共和国前進」が単独過半数を確保した。左右を糾合した中道政権が誕生し、共和党、社会党の既成の2大政党は窮地に追いやられ、台頭すると予想された極右ポピュリズムも「国民戦線」の敗北で失速したように見える。まさにマクロン新仏大統領の誕生は、懸念されてきた流れに一石を投じた形だ。さらに、欧州の再結束の主張を鮮明にするマクロン大統領の登場により、仏独主導による欧州連合(EU)が、より結束を深め再度活性化することに対する期待は高まっている。
マクロン大統領の政策で注目されるのは、EU統合にフランスの未来の活路を見出す重要性を訴えているところにある。具体的には、ユーロ共通予算の編成やユーロ財務省の創設など、EU統合の進展にとって重要だが、各国に配慮して神経質にならざるを得なかった「財政統合」に踏み出している点である。
EUは金融政策に関して、共通通貨ユーロを誕生させ、欧州中央銀行(ECB)に統合、一本化してきた。しかし、財政政策は各国で立案・執行するため足並みが揃わず、ギリシャなど財政破綻の危機に際しても、財政規律を持ち出して、侃侃諤諤の調整をしなければならないという矛盾を抱えている。
マクロン大統領の主張は、金融政策と財政政策の枠組みが異なりバラバラという構造的欠陥に対する答えを用意しようというものだ。この欠陥が解決する意味は非常に大きい。マクロン大統領は、財政の面でもEUの統合を進めることで、移民や難民の問題、EU内の南北問題ともいわれる各国間の所得格差にも向き合おうという主張で、EUの理念に根ざし、EUの経済発展を進め、地位向上に繋がると期待させるものである。
ドイツとの強い連携を何処まで復活させられるか?
そこでカギとなるのは、EU内のリーダーであり、経済的にも独り勝ちを続けてきたドイツとの強い連携を何処まで復活させられるかという点になる。ドイツのメルケル首相は、今秋の総選挙での4選が確実視されており、それほどドイツ国内のみならずEU内で圧倒的な指導力を誇ってきたといえる。メルケル首相率いるドイツは、既に財政黒字も達成し、経済も堅調さを維持し、経常黒字を拡大させ、失業率を低下させることに成功してきた。
しかし、サルコジ元大統領、オランド前大統領の政権下で、フランスは経済的には停滞し、政治的にも存在感が薄れるなど、フランスのEUでの地位は低下してしまったといわざるを得ない。マクロン大統領に期待されるのは、EU内では各国連携の音頭を取り、国内では議会での7割近い議席という安定した政治基盤を背景に、国内改革を断行してドイツに比べて出遅れた労働市場改革や税制改革を進め、フランスの成長力を高めるということだ。
フランス国民議会選挙でのマクロン新党の地すべり的な勝利と、イギリスの総選挙でのメイ首相率いる保守党の敗北は、英仏の地殻変動を予感させるとの評もある。フランスではルペン党首率いる極右「国民戦線」の台頭に、欧州にとって最大の政治リスクとして危機感が広がっていた。
しかし、極右台頭への警戒感と、共和党・社会党という既成2大政党への不満は、第3勢力にすぎなかったマクロン氏を押し上げた。一方で、BREXIT(EU離脱)交渉で国内基盤を固めようとしたメイ首相は、総選挙の前倒しという奇策に打って出て、その総選挙で敗北するという結果となり、裏目に出た形である。政権の基盤固めどころか、英国は、今後取り組まなければならないEU離脱交渉での方向感すら出せずにいる。その点では、2016年末に予想された英仏を取り巻く状況は、随分と様変わりした感がある。
トランプ氏を大統領に選んだ米国も含めれば、今回の欧州における一連の選挙というのは、岐路に立つ世界が変化していくターニングポイントになったのかもしれない。今後は、メルケル首相率いるドイツとマクロン大統領率いるフランスは、いっそう連携を強化する姿勢を鮮明にするだろう。それは、EU再生を主導し、EUの存在感を高める可能性を秘めている。
そして、この連携は、保護主義的で内向きな政策へのシフトを強める米英とは異なる軸となることすら予感させる面がある。それは、長期的には地盤沈下していくことが懸念されてきた欧州への見直しを期待させる面があるとも言えるであろう。
次回は、その経済的インパクトや相場への影響について見ていきます。