売り手が売買契約を解除するための「手付倍返し」
何やらTVドラマの「やられたらやり返す。倍返しだ!」というセリフをイメージしてしまいそうな言葉ですが、ご説明していきましょう。
不動産のような高額な買い物は慎重にしなければなりませんが、景気がよくなるとバブルが膨らみ、土地やマンションの価格が日増しに上昇していきます。3000万円だったマンションが、人気があれば4000万~5000万円でも買い手が現れます。
たとえば、ある人にマンションを3000万円で売る契約をして、その買主から手付金300万円を受領したとします。
ところがその後、他の人から4000万円で売ってほしいと言われました。当然4000万円で売ったほうが儲かりますから、最初の3000万円の契約をキャンセルしたいわけです。そんなときに、受領した300万円と、ペナルティとして300万円、合計600万円を支払えば、最初の契約は解除できます(※1)。これが「手付倍返し」です。
(※1)キャンセルできる期限を過ぎていたり、相手方が契約の履行に着手してしまっている場合など、解除できないこともあります。
受領した300万円を返すのはいいとして、自己の持ち出し分が300万円ありますのでマイナス300万円です。しかし4000万円の契約ができれば、プラス700万円となり、3700万円で売ったことになります。
手付倍返しは民法で認められていますので、次の契約が確実であれば、遠慮なくキャンセルできるということです。しかも、キャンセルされた最初の買主は、欲しかったマンションは買えなかったものの、自分が払ったお金が戻ったうえに300万円も儲かった計算になります。
手付金を放棄した上で売買契約を解除する「手付流し」
「手付流し」は、この「手付倍返し」と立場が反対です。ある買主が3000万円のマンションを買う予定で300万円の手付金を払い契約したとしましょう。ところが契約後、もっと条件のいいすばらしい新築マンションが売りに出ました。
そのマンションは4800万円と高額ですが、どうしてもそれが欲しいということで、最初の3000万円のマンションの契約をキャンセルすることにしました。このようなときには、手付金として払った300万円を放棄すれば、3000万円の契約は問題なくキャンセルできるのです(※2)。
(※2)キャンセルできる期限を過ぎていたり、相手方が契約の履行に着手してしまっている場合など、解除できないこともあります。
最初に払った300万円は失ってしまいますが、4800万円の新築のマンションを購入できたということです。これが「手付流し」です。
海千山千、魑魅魍魎が跋扈する不動産業界ではありますが、宅建業法をはじめとする法律や、契約書の反社会的勢力の排除条項などのコンプライアンス重視の風潮によって安全に儲けを出しやすくなり、最高に魅力的な業界となっていることがおわかりいただけたでしょうか。