前回は、同じ土地に「4つの異なる値段」がつけられる理由を説明しました。今回は、借地人・借家人を手厚く保護する「旧借地借家法」について見ていきます。

一度貸した土地は永遠に戻ってこない「旧借地借家法」

よく「商売は2月と8月はよくない」として「ニッパチはダメだ」とかいうことがありますが、不動産業界ではニッパチといえば借地権割合のことをいいます。

 

土地を売った場合に、その土地の元々の所有者より、その土地を借りている人のほうが多くお金をもらいます。その割合が、土地の所有者(底地権者)が20%、土地を借りている人(借地権者)が80%ということです。

 

国税局が決める「路線価」では借地権割合が30%から90%まで決められています。あくまで国が決める指標ではありますが、土地の所有者(底地権者)が10%、土地を借りている人(借地権者)が90%という場所もあります。

 

土地を借りている人が90%ももらう権利があるなんて信じられますか? しかし、それも国が指標として認めているのです。

 

たとえば借地権割合が90%の場所の1億円の土地の場合、その土地を売ったら、土地を借りている人は9000万円もらって、土地の所有者は1000万円しかもらえないというのが、この法律なのです。

戦時下の1941年導入された「正当事由制度」

どうしてこのようなことになったのでしょうか?

 

国土交通省のホームページによりますと、その昔、戦前の日本では貧乏な人が多く、土地を持っている人は限られているうえに、マンションやアパートなどはほとんどありませんでした。土地を借りるか家を借りるのが当たり前の居住形態だったのです。土地をたくさん持っている地主さんも、当時は土地を貸すのが常識だし、借りる人も、借りた土地に自分の住む家を建てて、さらにお金に余裕ができればもう1軒家を建てて人に貸していたといいます。

 

戦前の借地法や借家法では、契約の期間は20年でした。しかし戦時下の1941(昭和16)年に改正され、「正当事由制度」が導入されたのです。地主は裁判所が認める正当事由がなければ借地人や借家人を追い出すことができなくなりました。更新についても「法定更新制度」があり、期間満了になって地主が更新を拒否しても「法定更新制度」によって裁判所が更新を認めることができるようになったのです。

 

旧借地借家法は借主保護が強化され、土地を返してほしい場合は土地の価格の50~90%もの立ち退き料を払わなければなりませんでした。つまり、一度貸した土地は永遠に戻ってこない法律なのです。

 

この話は次回に続きます。

本連載は、2016年10月21日刊行の書籍『誰も知らない不動産屋のウラ話』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

誰も知らない不動産屋のウラ話

誰も知らない不動産屋のウラ話

川嶋 謙一

幻冬舎メディアコンサルティング

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