「透明貯金」=「人間関係の集積」
会社のヘソクリというと、普通は内部留保を思い浮かべると思います。しかし、本書籍の序章で述べた経緯のとおりで、弊社は財務的にはボロボロな状態で、銀行にも見放されたわけです。内部留保などありませんでした。
ところが、倒産の窮地に立たされたときに初めて、お金ではない、目に見えなかった資産に気付くことになります。
このとき私は、会社は数字だけでは評価できない部分もあることが分かったのです。それは、会社対会社や会社対人といった人間関係の集積でした。「透明貯金」です。それが弊社には驚くほど貯蓄されていたのです。
「この会社でなければ・・・」という信頼
私は窮地に立ったとき、とにかく何が起きているのか隠さずオープンにして、正直に困っているので助けてほしいということを、誠意をもって周囲の人たちに伝え続けました。
しかし、単に助けを求めても、どうにもならないときはあります。ところが弊社がなんとかなったのは、老舗として、長い年月の間に代々の経営者たちや社員たちが築いてきた信頼や存在価値が蓄積されていたためです。それが大きな「透明貯金」として貯蓄されていたため、私はその貯蓄を使うことで窮地を脱することができたのです。
それは、
「この会社の技術でなければできない仕事がある」
「この会社でなければ納められない現場がある」
「この会社でなければ動員できない職人たちがいる」
といったことです。ですから、倒産するかもしれないという噂が流布されながらも、多くのお客様が引き続き仕事を出してくださいました。
また、塗料を卸してくれていた塗料ディーラーさんの方々にも、「お宅が仕事を取ってきてくれるから塗料が販売できる」と、業界にとって大切な企業だと言ってくれる人たちがいたのです。
あるいはもっと情緒的に、「長い付き合いなのだから、これからも助け合おうじゃないか」と言って取引を続けてくださった方々もいました。
それはつまり、磯部塗装の「のれん」といったところでしょうか。競合がいるにもかかわらず、我が社は立ち直ることができました。このようにして窮地に立つことで、私は「透明貯金」の大きさに気付かされたのです。