仕事で最も重きを置くべき「お客様のため」という思い
私は社内の人たち、特に現場に近い人たちが揉めているときには、必ず問いかける質問があります。それは、「その揉めていることは、誰のために行おうとしていることですか?」という問いかけです。
意見が合わないで対立している場合、たいていは両者が向いている方向が異なります。そこで、仕事を行うに当たって、その仕事は誰のために行うのか、という原点に立ち返ってもらうのです。
仕事はさまざまな人たちのために行います。会社のため、家族のため、自分のため。しかし、最も重きを置くべきなのは、お客様のためです。
そもそも、お客様がいるから仕事があるのだということを忘れてしまうと、対立してしまいます。私は、お客様の方を向いていない社員は、会社の信用を食いつぶす人だと考えています。
弊社でもそのような人たちは成果を出せませんから、組織の中心からは外れてもらうようにしています。そしてお客様の方を向いていない社員に共通しているのは、会社のことを悪く言う人たちだということです。
このような考え方の違いは、会社が倒産の危機に遭ったとき、経理部門からよく見えたそうです。
お客様のためであるとか、会社のためであるといった考えはまったくもたず、自分のためだけを考えている社員は、経理部門の責任者にやたらと探りを入れてくるわけです。本当のところ、会社はどうなの? 危ないんじゃないの? といった具合に。
そういう人たちは、面白いくらいに自分たちから辞めていきます。会社のことを悪く言いながら。
こういう人たちが会社の信用を食いつぶす人たちです。前述しましたが、会社の外部にさえ会社を信用して支えてくれた人たちがいたのに、非常に残念なことです。
また、会社の信用にあぐらをかいている人もいました。会社の歴史や信用だけで仕事をしている人は、自分の信用で仕事をしようと努力しないのです。仕事の仕方を改善しようともしません。
このような人たちは、実際、会社が現在どのような状況にあるのか理解していませんし、理解しようともしません。平時はいいかもしれませんが、いったん危機的な状況を迎えると、会社にとってはお荷物的な存在になってしまいます。
会社の状況を「自分のことのように考える」社員
一方、会社の信用を高めてくれる人たちもいます。
このような人たちは、会社の信用にあぐらをかいていませんから、常に自分が信頼されるに足る質のよい仕事をしようとしますし、逆に会社の信用を自分が落とすわけにはいかないと考えて、困難があってもなんとか乗り越えようとします。
その結果、このような人たち自身が信用される人になります。
また、弊社が危機的状況にあったとき、彼らが踏みとどまってくれたことで、ほかの社員たちも安心して仕事に従事できるという現象が起きました。まさに、会社の信用を高めてくれたわけです。
彼らの共通点は、先ほどの経理部門の責任者に会社の状況を探りながら辞めていった人たちとは対照的でした。
会社の信用を高めてくれるような人たちは、会社のことを他人ごとではなく、自分のこととして考えてくれるのです。
会社の信用を食いつぶしたり、会社の信用にあぐらをかいたりしている人たちは、何か問題が起きると会社のせいにします。たとえば受注が減って自分たちの売上成績が下がると、会社のせいだと言い出します。
一方、会社の信用を高めてくれる人たちは、会社の問題を自分たちの問題として解決しようとします。この差は大きい、といいますか、逆の方向を向いているといえます。
忘れられない話があります。先ほどの支払いを待ってくれた親方の話ですが、気持ちはあっても現実的に支払いを待てない親方も当然います。後で知って驚いたのですが、ある幹部社員が自分の口座からお金を引き出し、親方に立て替えて払ってくれていたというのです。それも半端ではない額を、です。
会社の状況についてはオープンにしていますから、彼らも経営や資金繰りが厳しいのは分かっています。もしかすると立て替えたお金が戻ってこないかもしれません。
なぜそこまで?
「長年、磯部塗装にはお世話になりましたから、これくらいの事はさせて下さい」
彼らは笑って答えてくれました。
もう二度とあの時のような事態は招かないつもりですが、これほど会社の信用を守ってくれる人がいる事を誇りに思います。