銀行や取引先が重視した「信頼の絆」
メガバンクやコンサルタント、会計士にとっては、100年続いてきた老舗であるかどうかは企業を評価する材料としては関係ありません。現在の財務状況がどのようになっているかが問題です。彼らが企業を評価する際は、100年続いた企業も、この数年間に設立された企業も、同じ土俵に上げられてしまうのです。
いや、彼らだけではありません。私自身も、社長に就任した当初は、100年続いた老舗の価値を理解できていませんでした。
ですから、銀行や塗料ディーラーさんに支援をいただきに伺った際は、財務諸表上の数字や売上状況の数字など、現在の数字で表せることができる会社の価値だけを提示して、必死に説得しようとしていました。
ところが、付き合いの長い塗料ディーラーさんや協力会社の親方たちは、そのよう字を重視せず、弊社が築いてきた歴史や業界での存在価値、培ってきた技術力や動員力、そして長年一緒に仕事をしてきたという信頼・絆を重視してくださったのです。
このようなことは平時には見えないことで、窮地に陥ったときこそ見えてくる価値でしょう。これが老舗の「のれん」だったのです。
私も経営が順調なときに社長に就任していたら、この価値に気付かなかったかもしれません。むしろ、ピンチだったからこそ気付いた、いや、気付かされたのです。
客や協力先によって育てられる老舗企業
よく、企業の寿命は30年などといわれますが、そのような短い寿命の中でも幾度もピンチがやってきます。ましてや100年続いた企業であれば、なおさらのことです。そのようなときに、どうやって乗り切るのか。そういうときにこそ、周りの企業や人々との関係性が浮き上がってきます。
老舗企業とは、1社だけでできあがるものではなく、長くお付き合いいただいたお客様や協力先によって育てられるものだといえます。
また、老舗企業は、社会の制度の一部と見なされ、つまり、世の中の仕組みの1つとなるわけですから、単なる利潤追求体ではなくなっているといえます。特に弊社の場合は、土木建築に関わる、つまりインフラ整備に従事していますから、なおさら存在価値をもちやすいといえます。
なくてはならないと思わせる存在感も、老舗と呼ばれる条件でしょう。