誠意を込めて説明するも、突っぱねる大手銀行・・・
いったん倒産の噂が流れた会社を立て直すのには、想像以上に苦労をしました。特に金融関係からの信頼を回復するのは並大抵のことではありませんでした。
こちらとしては、お客様から受注を継続している実績や、塗料ディーラーさんたちからもなんとか塗料を卸していただけるようになりましたので、事業を継続できることは説明しましたし、債権への長期計画もきちんと立てた資料を提示しました。
しかし、大手銀行などは融資の可否を決めるマニュアルどおりにしか対応していただけませんので、こちらがいくら誠意を込めて説明しても相手にされませんでした。
これまでの「企業間の助け合い」が最大の信頼に
そのような日々を過ごしていましたので、古くからお付き合いいただいていたある協力会社の親方のところにも、なんとか支払いを待っていただけないか、その上で仕事を引き受けてくれないかということを、ご説明に上がりました。
面会の際に、いつもの資料一式を取り出してご説明しようとしたところ、「説明の前に、なんの話か結論を教えてほしい」と言われました。
そこで、「支払いを待っていただけないでしょうか。ご安心いただけるように説明させていただきますので」と話したところ、「そんな資料も説明も要らないよ」と言われたのです。
そして、「話など聞かなくても、社長がしんどい状況なのは分かっているし、うちも磯部さんがあったからこそ何十年も仕事してこられたんだから、どうしてほしいかだけ言ってくれればいいからさ」と言ってくださったのです。
用意してあった資料は、資金繰りの予定などが書かれたものでした。それで入金見込みをご説明して、支払いが可能であることをご納得いただこうと考えていたのです。そうでなければ未入金の仕事など引き受けていただけませんから。
ところが、その親方は言うのです。
「磯部さんにはずいぶんと世話になってきたんだから、なんでも言ってよ。できる限りのことはするから。それでダメならもう、仕方ないじゃないですか・・・」
これは男気などという一言だけで簡単に言えることではありません。仕事が大きければ大きいほど、もし支払いができなかったらその会社のダメージも大きいのです。しかし親方は、私から一切の担保を取らずに仕事を受けてくださいました。一見信用が担保のようにも思えますが、財務的にはその信用もなくなっていたのです。
このような人たちが、ほかにも協力先や塗料ディーラーさんたちに何人もいたのです。うちも助けられてきたんですから、と。
言葉にしようとすると難しいのですが、長いお付き合いの中で助けたり助けられたりしながら築いてきた絆のようなものが支えてくれたと言えます。一方的な恩義といったものとは違います。同じ業界で共に闘ってきた戦友とでも言いましょうか。
このように手を差し伸べていただいたとき、ビジネスライクに説得して助けていただこうと考えていた自分が恥ずかしくなったものです。自分が学生時代から考えていた「透明貯金」のことを、企業レベルでは忘れていたのです。それを教えられたわけです。
「透明貯金」は個人だけではなく、会社といった組織にも蓄積されているものなのです。