本連載は、早稲田大学大学院環境・エネルギー研究科教授で、エネルギーマネジメントシステム、再生可能エネルギーの専門家である小野田弘士氏の著書、『失敗から学ぶ「早稲田式」地域エネルギービジネス』(エネルギーフォーラム)の中から一部を抜粋し、地域エネルギーの重要キーワード「スマートコミュニティ」について考察します。

現状のペースのまま、途上国などの都市開発が進むと…

地域エネルギーの議論の出発点として、「スマートコミュニティ」の考え方について整理しておきたい。

 

さまざまな環境問題への対応が求められているなかで生まれてきた考え方である。そもそも環境問題とは、我々の生活や経済活動に伴って発生する環境負荷が、地球や自然界が許容できるキャパシティを超えてしまうことから生じているものと考えることができる。

 

つまり、現状のペースのまま、発展途上国などでの人口増加に伴い、都市開発が進むと、地球全体がどんどんメタボリックな状態となってしまうことになる。体脂肪率を極小化した都市やコミュニティを形成していく必要があるという観点から注目されてきたのが、スマートコミュニティの議論である。

スマートコミュニティの議論は電力に固執している!?

スマートコミュニティを議論するにあたっては、そのコミュニティを構成するインフラ全体を見渡す必要がある。最近よくいわれている「地産地消」を、どのような手順でアプローチすればよいかという視点でみてほしい。

 

以下の図表は、スマートコミュニティ関連のプロジェクトに携わっている事業者の方々とのディスカッションを通じて、整理してきたものである。

 

[図表]インフラの特性に着目したスマートコミュニティへのアプローチ

 

例えば、「情報」、つまり、IT(情報技術)やICT(情報通信技術)は、遠隔地の情報を一瞬に手元で閲覧することができる。また、電力というエネルギーは、遠くに運びやすい性質を有するエネルギーである。

 

言い換えると、現在、注目されている電力は、インフラという視点でみると、「電線をどうつなぐのか?」という議論に集約されるものである。

 

「循環資源」とは、我々が日常的に発生する廃棄物や未利用のバイオマス資源などを意味する。これは、該当する循環資源の発生量や品質、受け入れ先の立地状況などによって適切な「横持ち移動」の範囲が異なってくる。

 

また、「水」は、非常に重たい資源であり、遠隔に供給するのは困難なものである。さらに、エネルギーのなかでも「熱」というのは、熱導管に代表されるインフラ整備に要するコストなどの諸問題があるため、その有効利用を図る場合には、なるべく近いところで融通し合うことが前提となる。

 

「人・物」とは、いわゆるモビリティや物流の議論のことであるが、居住地から食品スーパーや勤務先などは近いほうが、利便性が高まることはいうまでもない。

 

これらの図から、特定の地域などにおけるコミュニティ形成や地産地消の議論をする際には、同図の右側の方から議論を進めていくことが、地域づくりやコンパクト化への方向性を得ることにつながるわけである。

 

ところが、昨今の国内におけるスマートコミュニティの議論は、「電力」に固執している感が否めない。その結果、「地域」とのつながりが極めて希薄な議論ばかりが先行し、手詰まりになる状況を招いていると感じている。

 

同図の下側には、それらを巡る議論の方向性を「一極集中型」か「分散型」かという視点で整理している。

 

ICTの分野では、「クラウド化」が主流である。これは、各種のデータを集中管理する意味であるから、「一極集中型」に議論がシフトしている。一方、電力では、東日本大震災以降、「原発」や「地域独占」に対する社会的な批判が高まっている。その流れで「分散型」が重要であるという論調になっている。

 

循環資源に関しては、我々の家庭から排出されるごみを例に述べてみたい。我が国は、「自区域内処理」の考え方が根底にあることに起因し、清掃工場の数が先進国のなかでは圧倒的に多い。あまりに分散化が進んでしまったため、個々の清掃工場の稼働率が低下し、さまざまな観点で非効率な状況に陥っている。

 

それを改善するために、ごみ処理を広域化し、地域ごとに集約したほうが効率的であるという議論がされている。

 

ここで言いたいことは、「一極集中型」か「分散型」の議論は、時代の背景などによって、常に「振り子」が振れるものであり、どちらを「是」とするかという結論を出しにくいという事実である。つまり、「最適」という言葉は安易に使われるが、何をもって「最適」なのかは十分に議論されていない。

 

現時点で答えは持ち合わせていないが、スマートコミュニティの議論のなかでは、こうした点、つまり、どの程度の規模でインフラの最適化を検討していくべきかを整理していかなければいけないと考えている。

 

地域におけるスマート化の検討を進めていくうえでは、以上に示した視点を留意しておく必要がある。もちろん、ここに示したものだけでなく、例えば、食料の地産地消をどう考えるかという視点を加えるという議論もあってもよい。

 

それにもかかわらず、現在、主に国内で展開プロジェクトに目を向けるといかがであろうか? エネルギー、とりわけ電力に偏ったアプローチがやたらと目に付く。エネルギーが重要な社会インフラであることはいうまでもないが、それだけに固執するとスマートコミュニティの議論が行き詰まることが多いようである。

失敗から学ぶ「早稲田式」 地域エネルギービジネス

失敗から学ぶ「早稲田式」 地域エネルギービジネス

小野田 弘士

エネルギーフォーラム

本書は、「まちづくり」「まちそだて」を成功させる秘訣について、著者の経験を踏まえた解決策を提示します。地域エネルギーに取り組むにあたっての具体的な実例や考えを提示し、「うちでは無理」「あの自治体だからできた」の…

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