エネルギーは付加価値を高めるための手段に過ぎない
他地域におけるスマートコミュニティプロジェクトの関係者から相談を受けることが多くなっているが、その大半は、「エネルギーを中心としたまちづくりがうまく進まない」という類いのものである。
エネルギーは、重要なインフラであることは間違いないが、そこに「コミュニティ」であるとか「まちづくり」という概念が出てきた瞬間に、「(エネルギーは)地域にとって何のメリットがあるのか?」という議論に陥ってしまうようである。
あくまでも「エネルギーは黒子」と位置付けることが肝要である。本庄スマートエネルギータウンプロジェクトを進めていくなかでも、その整理が必要な状況となっていた。そこで、プロジェクトを進めていくために、整理したのが以下の図表である。
[図表]本庄スマートエネルギータウンにおけるコンセプトの整理
こうした状況、つまり、「何のためのまちづくりなのか?」という状況に陥ってしまった場合には、「スマート化」や「エネルギー」に関する側面を一度、頭から消し去るとよい。
それらを抜きにしたうえで、そもそも当該地域が有する「利」や「特長」、あるいは地域で守っていきたいもの(地域の産業や伝統、文化など)を列挙するところから始めるとよい。同図の左側の項目が本庄市のそれに該当する。
なお、これらは、本庄市がこれまでに公開した資料から、筆者が抜粋したものである。同図では、あくまでも本庄スマートエネルギータウンプロジェクトは黒子であり、従来の本庄市が有する「利」を進化させる、あるいは付加価値を高めるための「手段」に過ぎないという整理にしている。
こうしたコンセプトの整理は、新しい取り組みを進めていくうえでは極めて重要である。なぜなら、以下にも述べるように、「何のためにやるのか?」という強いメッセージがないと、本庄スマートエネルギータウンプロジェクトを推進する「動機付け」が弱くなってしまうのである。
動機がないと、再生可能エネルギーやICTなどの新しいシステムを導入する際の判断基準が「経済性」だけになってしまうのである。同図の記載内容に応じて具体的に述べよう。
交通の便や大学の多さなど、街の魅力をアピール
東日本大震災に代表されるように、我が国の「災害」に対する意識は日に日に高まっている。筆者も都内に在住しているが、首都直下型地震などに対する漠然とした不安を抱いていることは否定しない。
そのなかで、本庄市は「災害が少ない」という強みを持っている。それは、かつて「遷都」の候補地に挙げられたこともあるという歴史が物語っている。恵まれた自然環境に関してはいうまでもないだろう。
さらに、東京駅から新幹線で50分(通勤圏内)であることや高速道路のインターチェンジも近接しており、交通の結節点としての役割を担っている。産業などの拠点として活用にはうってつけの場所である。
「東京まで50分」が果たして近いのか否かという議論がよく出るが、この点に対する「価値」は、そこに在住したり、事業所を構えようとしたりする事業者が判断するものであるから、こういうときには、ありのままの事実として述べればよい。
産学官民連携に関しては、早稲田大学がキャンパスを構えていることに加え、早稲田大学の付属校である早稲田大学本庄高等学院をはじめとする高等学校も多数立地しているなどの特徴がある。新たな学研都市としての発展していくポテンシャルを有しているといえる。
また、県内有数の農産物の産地であることは、恵まれた水および食の安全・安心に関する関心が高まるなかで重要な訴求ポイントといえるだろう。さらに、歴史的な建造物などをはじめとする地域特有の伝統・祭り・文化財は、地域における観光資源となり得るものである。
繰り返しになるが、本庄スマートエネルギータウンは、これらの「利」を「進化」させる役割を担う。つまり、ただでさえ災害に強いという利点を有する本庄の魅力をさらに高めるために、エネルギーセキュリティ対策を強化する。だから、自立・分散型エネルギーシステムを導入するのである。
さらに、なぜ、再生可能エネルギーや未利用エネルギーをはじめ燃料電池やEV(電気自動車)の導入を目指すのか? という点に関しては、オオタカなどが生息する豊かな自然環境を守るためである。こじづけに聞こえるかもしれないが、これは、非常に重要な点である。
これは、特に、EVにいえることであるが、その環境配慮性以外のメリットが十分に語られていない。「環境配慮」という観点だけでEVの導入を促進しようというのは、費用対効果の観点でもクリアしなければいけない課題が多い。だから、「なぜ、EVなのか?」に対する明確な答えが必要なのである。
また、充実した交通網は、バイオマスなどの地域資源循環システムを構築する際には有効に働く。実際に、埼玉県秩父市およびその周辺地域との木質バイオマスに関する連携は視野に入れているところである。
また、「産学官民連携」に関しては、単に関係者が一堂に会するだけでなく、それらが適切な役割分担のもとでエリアマネジメントに参画する地域サービスプロバイダー事業のビジネスモデルを実現することを目指している。
「農産物」に関しては、首都圏などへの供給拠点という役割ではなく、その地域に居住する市民にもメリットを共有する仕組みが考えられる。
例えば、本庄早稲田駅前に進出した大規模商業施設でも、地産の農産物を積極的に販売する。それらを購入した地域市民は、エコポイントのような形でメリットが還元される。これによって、地産地消が進み、結果的にサプライチェーン全体での環境負荷が削減される仕組みが実現される。
さらに、「観光資源」に関しては、交通の結節点としての優位性と連携しながら、次世代モビリティなどを活用した観光交通システムを構築し、交流人口の拡大を図ることで地域活性化につなげることが可能となる。
「目的」と「手段」をはっきりさせること、そして、地域の魅力を再度見直すこと。ごく当たり前の話であるが、このプロセスを行うだけで、スマートコミュニティを推進していくうえでの地域との「共有」が図れることもある。