今回は、「ミャンマー」のヒスイの特徴について見ていきます。※本連載は、日本彩珠宝石研究所の所長で、独自にコレクション収集も行う飯田孝一氏による著書、『翡翠 (飯田孝一 宝石のほんシリーズvol.2)』(亥辰舎)より一部を抜粋し、日本の国石である「翡翠」にまつわる様々な基礎知識をご紹介します。

良質なヒスイを産出するカチン州北部の丘陵地帯

ヒスイは山1つという様な大岩塊で形成されても、その後の地殻変動で分断されて大小のヒスイ礫となり、次第に地表に向かって移動していく。

 

その過程で露出ヒスイの礫を含んでいる蛇紋岩は地表からの水を含んで膨張してヒスイの礫を押し上げ、地表に露出した礫は山をころげ落ち、泥の中に埋もれたり川に流されて、ヒスイはやがて人に発見されることになる。今回からは、ヒスイの産地として有名なミャンマーと新潟県に限定して取り上げてある。

 

ミャンマーでは、カチン州の北部のチンドウィン川からイラワジ川の分水嶺を成す丘陵地帯に良質のヒスイを産出する場所が数カ所ある。最も良質な石を産する事で有名なのは、①トーモー(Taw Maw)、②ミェンモー(Mien Maw)、③パンモー(Pang Maw)、④ナムシャモー(Namsh Maw)の4ヵ所で、最大の岩脈がトーモーにある。

 

(注)Mawはヒスイの産地を意味する言葉である。

 

北ビルマ・カチン高原地質図
(Chhibber,1934)茅原一也著【ヒスイの科学】を参考に選定
北ビルマ・カチン高原地質図
(Chhibber,1934)茅原一也著【ヒスイの科学】を参考に選定

 

橄欖岩及び蛇紋岩の中にひすい輝石岩とアルバイト岩(曹長石岩)の鉱床があり、それらは地層に垂直に貫入した形状(dyke)または地層に水平に貫入した形状(sill)を成している。

 

トーモーのアルバイト-ひすい輝石岩の“岩脈”の断面図(Bleeck,1907)をアレンジして使用
トーモーのアルバイト-ひすい輝石岩の“岩脈”の断面図(Bleeck,1907)をアレンジして使用

川の中から採掘されるヒスイのほうが品質が高い傾向

トーモー(海抜826m)は、19世紀後半(1880年)になって発見された最大のヒスイ産地である。チャンワー、マモン、バビン、サンカー、パカン、ロンキン、カンシイと、それから奥地に続く川の沿岸や支流に分布している新生代第三紀の地層の中には山頂からころげ落ちたヒスイの岩塊が含まれている。

 

地層が侵食により削られると岩塊はそこから川に落ちて、流されたものが川底に点々と見つかる。中国人の華僑が見つけ出したのはこの様な場所で、以来古くからヒスイの採掘が盛んに行われてきた。

 

ミャンマーのヒスイの原石は特徴的な外観を見せる。蛇紋岩が風化して生じた鉄分の多い土壌の中から採掘されるものでは、表面を様々な厚みの錆色の層が覆っている。川の中から採掘されるものには錆色の層は形成されていないが、どちらかというとこちらの方が内部の品質が高い様である。

 

ヒスイを探す人は泥水の中を裸足で歩き、足裏の感覚で原石を発見する。採集された原石は、カチン族や華僑の人が担いでジャングルを踏破して、モガウンに集められ、そこからはロバの背で雲南の峡谷を運ばれる。あまりの道の悪さと険しさで谷底に落ちて命を失くす人が多かったといわれる。

 

19世紀の中ごろになるとマンダレーに大きな集積地が作られて、危険はかなり少なくなり、ここからは海路で中国の広東まで運ばれる様になった。

 

翡翠 (飯田孝一 宝石のほんシリーズvol.2)

翡翠 (飯田孝一 宝石のほんシリーズvol.2)

飯田 孝一

亥辰舎

2016年に日本の国石として決定された「翡翠」。本書では、ヒスイの伝説や歴史、産出される形態、類似の石の一覧や、簡単な鑑別方法から専門法までご紹介します。翡翠について興味のある方や、宝石人必携の書です!

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