今回は、「ヒスイと呼べるもの、呼べないもの」の差は何かを見ていきます。※本連載は、日本彩珠宝石研究所の所長で、独自にコレクション収集も行う飯田孝一氏による著書、『翡翠 (飯田孝一 宝石のほんシリーズvol.2)』(亥辰舎)より一部を抜粋し、日本の国石である「翡翠」にまつわる様々な基礎知識をご紹介します。

「90%以上」ひすい輝石を含むのものが理想

マーケットに流通しているヒスイを、ひすい輝石の基準に則して鉱物学の視点で見てみると、ヒスイと判定できるものの他に[ヒスイの亜種]として解釈できるものから、[ヒスイの変種]として分類すべきもの、そして[ヒスイとは呼べないもの]という内容のものがあることがわかる。

 

 

<ヒスイと判定できるもの>

 

理想は1個体当たりが90%以上をひすい輝石が占めるものである。しかしひすい輝石の性質上、クロム分(オンファサイト成分)、鉄分(オンファサイト成分)、カルシウム分(ダイオプサイド成分)と混和しやすく、“ヒスイ” とは呼べないものも多く産出する。ヒスイと判定できるものはその範疇にあるものだが、それでもそれら混和してくる成分によって、ヒスイの色は大きく変化する。

 

特にグリーンのヒスイでは、コスモクロア輝石により翠緑色となったり、オンファス輝石により地味な緑色となる。

 

 

ヒスイのマーケットでは、その品質を分類して、❶インペリアル Imperial(左)、❷コマーシャル Commercial(中央)、❸ユーティリティ Utility(右)というランクに区分している。写真はグリーンのジェダイトだが、ラベンダー・カラーのものでも同様に評価される。各グレードの表記は、それぞれ ①最高の、②商業的な、③実用的なという意味がある。

ヒスイ=緑色ではない!? 中には黒いヒスイも

●鮮やかな濃緑色のヒスイ(屈折率:1.52 ~ 1.54 比重:2.46 ~ 3.15<最大で3.5 前後>)

 

コスモクロアのグリーンはクロム・イオンによる発色で、ペイントの様な質感のグリーンである。かつては『ユレイアイト(Ureyite)』と呼ばれた。

 

 

●くすんだ濃緑色のヒスイ(屈折率1.68 比重:3.40 ~ 3.65)

 

主に『オンファサイト』の集合から成る。鉄イオンによる発色で、その存在量によって緑がかった黒色からまっ黒にまでなり、流通上では『ブラック・ジェダイト』と呼ばれているものにまでなる。

 

 

組成上では、『エジリン(錐輝石)』、『オージャイト(普通輝石)』が混和しているものもあり、その混和の程度によってはヒスイとは評価できず、『エジリン』『オージャイト』とする場合もある。この種のヒスイは、「クロロメラナイト Chloromelanite(濃緑玉)」と呼ばれていた時期もある。

 

ちなみに、クロロメラナイトという名前は一種の造語で、ギリシャ語の明るい緑色を意味する「クローロス Chloros」と黒色を意味する「メラース Melas」が語源となっている。

 

 

古来緑という色は、アニミズムの空間世界では汎用なものだったのだろう。マラカイトのグリーン、ジャスパー、そしてヒスイのグリーン、さらに欧風のグリーンもある。トルマリンのグリーンというものもある。それらのすべてが緑への畏敬であって、それらの緑の世界に対峙した人々は、その色の内容にまで質感を順序づけてきたのである。

 

ヒスイという世界にあってもそれは変わることなく、ヒスイという素材に対して翡翠という名前で対峙してきたのである。ヒスイの変種もその様に見える石でさえも、何となく違うと感じつつも、翡翠というイメージで捉えたのである。

翡翠 (飯田孝一 宝石のほんシリーズvol.2)

翡翠 (飯田孝一 宝石のほんシリーズvol.2)

飯田 孝一

亥辰舎

2016年に日本の国石として決定された「翡翠」。本書では、ヒスイの伝説や歴史、産出される形態、類似の石の一覧や、簡単な鑑別方法から専門法までご紹介します。翡翠について興味のある方や、宝石人必携の書です!

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