全ての金融機関からの同意が必要な「私的整理」
赤字会社を整理する方法には、清算してそのまま事業を終わらせてしまう清算型と、その後再起を図ろうとする再建型のふたつがあります。経営者が高齢で、親族や従業員に承継者もいない場合には、特別清算と経営者保証ガイドラインのセットできれいに廃業することが、最良の選択と考えられます。
少し話がそれますが、経営者がまだ若く、いったん廃業しても事業に再チャレンジしていきたいという意欲があり、今後黒字転換を見込める場合は、再建型も選択肢のひとつとなります。そこで、次に再建型の会社整理方法について見ていくことにします。
再建型の整理方法には、大きく分けて私的整理と法的整理があります。
私的整理は任意整理とも呼ばれ、裁判所を通さずに会社の代理人(多くの場合が弁護士)が中心となって金融機関(銀行・信金信組)などの債権者と直接交渉して債務の条件変更や減額などを認めてもらう方法です。法的に定められたルールはなく、弁護士などが仲介役となって当事者間の話し合いを進めていきます。しかし、最近の中小企業再生支援協議会においては、中小企業再生支援協議会事業実施基本要領に従って私的整理が行われており、注目されています。
私的整理の場合、金融機関を対象に実施され、その内容は公開されないので取引先や従業員などに知られることなく事業再生を図ることが可能です。しかし、私的整理はすべての金融機関の同意を得なければ成立せず、一部の金融機関が反対すれば、法的整理を行うほかありません。特に、複数の金融機関からの借入金がある場合などは、同意を得るのが難しいケースもあります。このような場合には、法的整理の再建手段を選択する必要があります。
現経営陣での経営続行が可能な「民事再生」
法的整理とは、文字どおり法律に基づいた債務整理の方法です。民事再生法に基づく民事再生と会社更生法に基づく会社更生があります。このうち会社更生は、従業員や取引先が多数で負債総額が大きく、倒産すれば社会的にも影響力の大きい上場会社などの大企業に対して適用されるもので、裁判所に納めなければならない予納金も多額にのぼり、中小企業に使われることはありません。なお、司法統計年報(2011年〜2013年度)によると会社更生の案件は年間数件しかありません。これに対し後に詳しく説明する民事再生の案件は同調査によると年間約300件あり、特別清算と同じくらいです。
ここでは、中小企業の再生にもっとも利用される民事再生についてお話ししていきましょう。民事再生は、経営破綻のおそれのある会社が破綻前に裁判所に再生手続開始の申立てをし、事業を継続しながら再建を図るというものです。
破産や特別清算が事業の廃業や会社の清算を前提とした手続なのに対して、民事再生は会社の再建を前提としています。民事再生による再建のもっとも大きな特徴は、現経営陣が引き続き会社の経営にあたり、財産の管理処分権を有するところです。DIP型の手続といわれます。
大企業を想定した会社更生の場合、破産の場合と同様に裁判所が倒産実務に通暁(つうぎょう)した弁護士などを更生管財人に選任し、この更生管財人が会社の経営権および財産の管理処分権を掌握します。そのため、現経営者は退任しなくてはなりませんが、民事再生では現経営陣がそのまま経営を続けることができます。中小企業では、経営の舵取りが創業者でもある経営者の手腕に任されているところも多いので、現経営陣の存続は会社にとって大きなメリットといえます。