再生計画案は「清算価値保障」に則って作成
前回は、中小企業の再生にもっとも利用される民事再生について解説しました。今回は、具体的に、どのように再生させていくのか説明します。
まず、会社が再生手続開始の申立てを行うと、裁判所は、手続を監督するための監督委員を選任するとともに、再生手続開始の申立ての前日までの原因に基づく債務(便宜上「旧債」といいます)について弁済禁止の保全処分を発令します。これを受け、再生手続開始の決定までは旧債の支払が止まります。その後も、再生計画に従った弁済が始まるまでの間、引き続き旧債の支払がストップします。
これによって経営者は旧債の支払という資金繰りからいったん解放されて、事業の再生に集中することができるためそのスピードは速くなります。
次に、再生計画案の策定をします。再生計画案は、再生債権についての減額や支払猶予などの権利変更を含むものであり、原則として会社において作成します。
再生計画案の作成のポイントは、再生債権の権利変更後の回収額は、会社を破産させた場合の債権者への配当による回収額を上回らなければならないということです。難しい言葉ですが、これを「清算価値保障」の原則といいます。再生計画案による債権者への配当が破産の場合を下回れば、債権者にとっては、再生計画案に同意して再生計画に基づく弁済を受けるよりも、破産してもらったほうが得ですから当然です。
中小企業の場合、苦しい経営状況が長引いているため、いざ破産するにしても現金化できる資産はわずかです。会社の土地建物には、もちろん金融機関の抵当権がついていますから、一般の債権者への配当に回る余地はありません。多くの場合、破産した場合の債権者への配当は数%にしかならず、これを上回る支払を盛り込んだ再生計画案も一般債権者への配当は数%程度のものが多いのが現状です。
実際に筆者が申立代理人として作成した再生計画案や監督委員としての意見を述べた再生計画案の多くは、数%の配当でした。
誠心誠意の努力が認められれば、ハードルは高くない
会社が策定した再生計画案は債権者集会における多数決に付されます。この多数決が民事再生の山場です。再生計画案が可決される条件は、再生債権者の議決権者の過半数の同意および再生債権総額の2分の1以上の同意を得ることです。特別清算の場合は、債権総額(議決権の総額)の3分の2以上の額を有する者の同意が必要ですから、民事再生のほうが決議の要件が軽くなっています。
ここで債権者の賛同が得られなければ民事再生はとん挫し、破産となってしまいます。債権者の同意を得るために、会社は債権者に適切な情報を開示し、経営者は弁護士とともに金融機関や大口の債権者にあいさつ回りをして説明と理解を求めます。
こうした誠心誠意の努力が認められれば、このハードルはそれほど高いものではありません。なぜなら、破産の場合の配当率は極めて低く、ゼロから数%程度のことも少なくありません。このため債権者としては、たとえ弁済率が低く、分割払となっても、再生計画案に同意して、少しでも多くの配当を受けるほうが得だからです。
民事再生は、会社の早期再建を目的とするものなので手続は迅速です。一般的には、再生手続開始の申立てから5、6か月程度で債権者集会において再生計画案が可決され、裁判所に認可されて確定することによって会社再建への道筋が整います。
もちろん、従業員にとっても大きなメリットがあります。民事再生のなかで、給与などの削減やリストラが行われることもありますが、従業員がすべて解雇される清算型とは異なり、会社は存続して一定の雇用も守られるからです。