専門家にとっても複雑な投資信託の税務
公募外国株式投資信託と外国公社債投資信託ですが、公社債投資信託は公社債以外のものは一切含んではならないというルールと、後ほど説明するように課税が株式投信より高いこと、また、株式投信であっても運用商品に社債を組み入れる自由度があることから、実際には株式投信で外国債券が運用されることが普通に行われています。
これから見ていくように、投資信託の税務は我々専門家でもめまいを覚えるくらい複雑です。何故このような税制になったのか(おそらくは業界団体の陳情等からでしょう)の経緯は分かりませんが、このような税制が投資家にとって、投資信託が分かりにくい、何か騙されているように思える、という理由の一つにもなっていると思います。シンプルな税制! これが一番です。
(1)現地国の課税
保有時の運用益に対する課税ですが、現地国での一般的な課税は公募外国株式投資信託の収益の分配金は配当所得に、外国公社債投資信託の収益の分配金は利子所得に該当し、第3回と第4回で説明したように、一般的には現地国で源泉徴収が行われます。
次に、日本居住者が元本を売却した時の課税ですが、租税条約において譲渡所得に該当するのかその他所得条項に該当するのかを検討しなければならず、該当する所得条項によって課税関係が異なる場合があります。一般的に、譲渡所得あるいはその他所得条項のいずれに該当しても居住地のみ課税と規定している場合が多く、その場合は現地国では非課税となります。
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(2)日本の課税
外国投資信託の購入は、国内の証券会社を通じて行う場合と、直接、現地の証券会社を通じて行う場合とで、日本での確定申告や税金に違いがあります。
①国内の証券会社から購入する場合
●保有時
投資信託の保有時の運用益としては収益分配金があります。
公募外国株式投資信託と外国公社債投資信託それぞれの収益分配金に対する課税は以下のようになっています。
【公募外国株式投資信託】
国内の証券会社を通じて公募外国株式投資信託を購入した場合、その収益分配金に対する課税は、源泉徴収のみで確定申告を不要とする方法、申告分離課税で確定申告を行い外国税額控除の適用を受ける方法、総合課税で確定申告を行い外国税額控除の適用を受ける方法のいずれかを選択できます。
これら選択の判断基準は、第3回の配当のところで説明した、「年間所得が195万円を超える人・・・、上場株式の譲渡損失を活用する人」と同じです。
源泉徴収については第3回の配当と同様の税務取り扱いとなり、2013年12月31日までは10.147%(所得税及び復興税7.147%、住民3%)、2014年1月1日以降は20.315%(所得税及び復興税15.315%、住民税5%)の税率で源泉徴収されます。
なお、外国投資信託の場合、現地で源泉税がない国にトラスト(信託)を設立している場合が一般的ですが、もし現地で税金が源泉徴収されている場合は、その源泉徴収後の金額に対して日本で源泉徴収されます。これも第3回の配当と同じ取り扱いです。
【外国公社債投資信託】
国内の証券会社を通じて受け取る外国公社債投資信託の収益の分配金は、第4回の保有時の課税と同様に、利子所得としての取り扱いになります。もし外国で源泉徴収された外国税額がある場合、日本との合計で20.315%を限度に国内で源泉徴収され課税関係が終了します。これを差額徴収方式による源泉分離課税といいます。なお、差額徴収方式のため外国税額控除の適用はありません。
●元本売却時
外国投資信託の元本売却時の課税としては、ⅰ譲渡所得に対する課税とⅱ償還差益に対する課税があります。
ⅰ譲渡所得に対する課税
【公募外国株式投資信託】
国内の証券会社を通じて公募外国株式投資信託の受益証券を譲渡する場合の日本の税金の取り扱いは、第3回の課税の上場外国株式の譲渡の取り扱いと同様に、譲渡益に対しては申告分離課税の対象として2013年12月31日までは10.147%(所得税7.147%、住民税3%)、2014年1月1日以降は20.315%(所得税及び復興税15.315%、住民税5%)の税率で課税されます。
なお、譲渡損益の計算において、取得費の為替換算は取得した日のレートで行いますので、為替差損益は自動的に譲渡所得の計算に含まれます。したがって、為替差損益を雑所得として別計算する必要はありません。
【外国公社債投資信託】
国内の証券会社を通じて外国公社債投資信託の受益証券を譲渡する場合の日本の税金の取り扱いは、第4回の課税の一般の利付債を譲渡した場合と同様の取り扱いで、所得税及び住民税は非課税とされています。そのため、譲渡損については生じなかったものとされ税務上は一切考慮されません。
ⅱ償還差益
【公募外国株式投資信託】
国内の証券会社を通じて公募外国株式投資信託の償還を受けた場合、日本の税金の取り扱いは、償還金額と取得価額との差額である償還差益は株式等にかかわる譲渡所得として課税されます。前記ⅰの公募外国株式投資信託の譲渡所得に対する課税の取り扱いと同じです。
【外国公社債投資信託】
国内の証券会社を通じて外国公社債投資信託の償還を受けた場合、日本の税金の取り扱いは、償還金額のうち元本相当額を上回る部分の金額が収益分配金部分として利子所得になります。20.315%(所得税及び復興税15.315%、住民税5%)の税額が差額源泉徴収方式により源泉徴収され、所得税や住民税の課税関係は終了します。
②現地の証券会社から購入する場合
●保有時
【公募外国株式投資信託】
直接、現地の証券会社から購入した公募外国株式投資信託の収益分配金に対する課税については、配当所得であることから第3回の保有時の課税と同様の税務取り扱いとなり、所得税も住民税も全て確定申告が必要です。日本での源泉徴収はありません。
【外国公社債投資信託】
直接、現地の証券会社から外国公社債投資信託の収益の分配を受ける場合の日本の税金の取り扱いは、第4回の保有時の課税と同様の税務取り扱いとなります。つまり、国内の証券会社を通じた場合の源泉分離課税の適用はされず、総合課税の利子所得として確定申告をしなければなりません(利子所得を計算する場合の円換算は、現地での受領日の為替レートで計算します)。
●元本売却時
①譲渡所得
【公募外国株式投資信託】
直接、現地の証券会社を通じて公募外国株式投資信託を売買する場合の日本の税金の取り扱いは、第3回の元本売却時の課税と同様の20.315%(所得税及び復興税15.315%、住民税5%)の税率により課税されます。
【外国公社債投資信託】
直接、現地の証券会社を通じて外国公社債投資信託を売買する場合の日本の税金の取り扱いは、第4回の元本売却時の課税と同様の取り扱いで、所得税及び住民税は非課税とされます。そのため、譲渡損については生じなかったものとされ税務上は一切考慮されません。
②償還差益
【公募外国株式投資信託】
直接、現地の証券会社から公募外国株式投資信託の償還を受けた場合の日本の税金の取り扱いは、第3回の元本売却時の課税と同様の20.315%(所得税及び復興税15.315%、住民税5%)の税率により課税されます。
【外国公社債投資信託】
直接、現地の証券会社から外国公社債投資信託の償還を受けた場合の日本の税金の取り扱いは、第4回の元本売却時の課税の償還差益と同様の税務取り扱いとなり、雑所得として総合課税の対象となり確定申告をしなければなりません。原則はこのようですが、現地証券会社から購入した投資信託の中には、保有中に日本でも税金がかからないものもあるようです。個別の商品ごとの検討が必要でしょう。
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