5000万円超の国外財産保有者は報告が義務化
日本の居住者である個人が海外に所有している財産に対し、運用益や売却益が生じた時は日本の所得税が、また、相続あるいは贈与が発生した時は相続税、贈与税が課税されます。しかし、このような基本的な知識が不足しているためか、海外財産に対する所得税や相続税、贈与税の申告漏れが増えているのも事実です。
課税当局は、納税者が国外とお金のやり取りをする事実を把握する方法として、1998年から国外送金等に関する調書制度を導入しています。1回当たり100万円超の国内金融機関への入金、国外金融機関への送金がある場合、金額、目的などを金融機関から提出させるのです。多額の送金が行われると必ず税務署から「お尋ね」が送付されてきます。
これによって、申告漏れをチェックすると同時に申告を促しています。ただ、国外送金等調書だけでは、海外に出たお金がどのように運用されどのような所得を生んでいるか、再度国内に送金されない限り把握が難しいのが現実です。
そこで、海外へ出たお金や他の財産そのものの実態を把握するための仕組みとして、平成24(2012)年度税制改正において、毎年、年度末に時価総額5000万円超の国外財産を保有する居住者である個人に対し、これら財産の種類、数量及び所在地、価額等の情報を明らかにした調書の提出を義務付ける制度が創設されました。
これが国外財産調書制度です。この国外財産調書を正当な理由なく提出しない場合や虚偽記載をした場合には、1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金の対象とされていますので、十分注意してください。
この制度の対象(当局が狙うターゲット)はいわゆる富裕層であると言われています。日本は香港やケイマンといったタックスヘイブン国との間にも租税協定を結びました。当局は、これらの国(地域)との間で結ばれた情報交換規定を活用し情報収集をますます強化していくことでしょう。
今後は、ますます富裕層の海外財産の把握が強化され、課税漏れが摘発されていく可能性が高まります。富裕層と言われる人々は、ある意味、資産防衛ということで財産運用のポートフォリオとして、財産の一部を海外にシフトしていく必要性が一段と高まっていることも事実です。そのような状況下、節税を最大限行いながら課税漏れがないよう、所得や財産を正しく把握し申告していくことがますます求められることになります。
過去の申告漏れに気づいた場合は・・・
海外赴任された人の中には、現地で口座を開き、放っておいたまま日本では確定申告をされていない人がいます。なぜなら、日本の銀行の預金利息は源泉分離課税で課税関係が終了し確定申告が不要のため、海外預金についても同じように申告義務が無いと思っていたり、リーマン・ショック後運用益が出ていない場合や、出ていても少額ということで申告義務が無いのではと思われているようです。
今回の国外財産調書制度の創設により、国外財産が5000万円を超えていることを確認し、過去、その運用益(利息や収益分配金)に対して申告漏れがあったことに気付く人が結構おられます。そのような場合、今後どのように対応したらよいのでしょうか。
原則として、以前から確定申告をしている人は、2012年分以前の申告分については、過去3年分について修正申告書を、確定申告義務があるのにしていない人は過去5年分について期限後申告書を納税者自ら提出した方がよいでしょう。
規定によると、税務署長は、過去の確定申告書に漏れがあった場合は3年間は更正(一方的に納税額を訂正します)することができ、確定申告書を提出していない場合は5年間は決定(一方的に納税額を決めます)することができます。更正または決定される前に納税者が自ら修正申告や期限後申告をすることでペナルティーが少なくなります。また、住民税についても税務署に修正申告書や期限後申告書を提出することで自動的に計算されます。
具体的には2013年3月15日から2014年3月17日までに修正申告を行う場合は、2010年分から2012年分の3年分、期限後申告は2008年分から2012年分の5年分になります。なお、2011年12月の税制改正で、2011年分以後の申告分から更正期間が3年から5年に変更されたのでご注意ください。なお、原則は更正期間が3年、決定期間が5年と言いましたが、偽りその他不正の行為により所得税を免れた、いわゆる脱税の場合は更正及び決定の期間は7年になります。