租税条約の内容によっては軽減税率の適用もあり
現在日本に居ながら海外へ投資を行っているものの、いずれは海外への移住を視野に入れているという人もいるでしょう。そこで、海外へ移住した場合に、どのような税金が日本で発生するのかについても簡単に触れておきましょう。
海外移住者にとっては、
①日本で発生する配当金や株式の譲渡等の各種所得に対してどのような税金が課されるのか(所得税の問題)
②海外滞在中に子どもたちに財産の贈与を行った場合や相続が発生した場合に、日本の贈与税や相続税がどのように課税されるのか(贈与税と相続税の問題)
が大きな関心事でしょうから、以下ではそれらに絞って解説します。
1.海外移住後の日本の所得税
海外在住になると日本の非居住者となるため、日本の預金や上場株式の配当等については、次のように日本の税金がかかります。それらに対する移住先国での税金は、各国ごとの税法によって決まります。
ここに言う非居住者とは、国外に住所を有し、または現在まで引き続き1年以上居住(人が継続して住んでいるが、住所には至らない場所のこと)を有する個人のことを言います。
(1)日本の預金利息や債券の利息
非居住者が日本の銀行に預けている預金に対する利息や、公社債等の債券に対する利息については、その支払額の15.315%(その年の1月1日に日本に住所が無いため住民税は課されません)の課税が行われます。課税方法は、預け入れている銀行や債券の発行者による源泉徴収により課税関係は終了します。
また、日本が各国と結んでいる租税条約の中に、預金利息や債券の利息について日本での源泉税率を15%未満に軽減している条約があり、この海外移住者の移住地国が軽減税率の締約国であるならば、日本からの受取利息については軽減税率が受けられます(例えば軽減税率が10%の場合、復興税率0.21%は課されません。租税条約の軽減税率については以下も同じです)。
(2)日本の上場会社株式の配当
非居住者が所有している日本の上場会社株式の配当は、その支払額に対して2013年12月31日までは7.147%、2014年1月1日以降は15.315%の税率(その年の1月1日に日本に住所が無いため住民税は課されません)で課税が行われます。課税方法は、株式を発行している上場会社による源泉徴収により課税関係は終了します。
また、日本が各国と結んでいる租税条約の中に、配当金について日本での源泉税率を7%未満(2014年1月1日以降は15%未満)に軽減している条約があり、この海外移住者の移住地国が軽減税率の締約国であるならば、日本からの上場株式の配当金については軽減税率が受けられます。
(3)日本の上場会社株式の譲渡に対する課税
非居住者が所有している日本の上場会社株式を譲渡した場合は、原則として日本では課税されません。しかし、日本に一時帰国した時に譲渡した場合には注意が必要です。非居住者が日本滞在中に国内資産を譲渡した場合は日本の課税対象としているので、一時帰国時に日本の上場会社株式を譲渡した場合は日本で課税されることになります(前記のほか例外的に課税される場合は、買い占めによる株式の譲渡、事業譲渡類似株式の譲渡、不動産関連株式の譲渡といった特殊な場合です。株主としてかなりのシェアを所有しているオーナー株主等がこれに該当する場合があるでしょう)。
日本で保有する不動産の譲渡益に対しては日本で課税
(4)日本の不動産所得に対する課税
非居住者が日本で賃貸している不動産の所得に対しては日本で課税されます。課税方法は、受け取る不動産の賃料について、賃借人側で支払い時に20.42%の源泉徴収が行われます(賃借人が個人で自己の居住用で使用している場合は源泉徴収を行う必要はありません)。
不動産所得は、受け取り家賃から固定資産税、修繕費、借入利子及び減価償却費等を差し引いて計算します。確定申告では、所得控除として基礎控除のみ(寄付金及び雑損があれば寄付金控除と雑損控除が適用できます)が控除されます。
所得税を計算する場合に適用される税率は、5.105〜40.84%(なお、平成25<2013>)年度税制改正で最高税率が45.945%になる予定)の累進税率によります(その年の1月1日に日本に住所が無いため住民税は課されません)。税額が生じる場合は、毎年、翌年の3月15日までに確定申告を行い納税する必要があります。それを怠ると加算税や延滞税が課されます。
もし、源泉徴収が行われており、所得税を計算した結果として還付となる場合は、毎年確定申告をしなくても申告期限から5年以内に期限後申告を行えば還付が受けられます。
(5)日本の不動産の譲渡に対する課税
非居住者が日本国内にある不動産を譲渡しキャピタルゲインを得た場合は、譲渡所得として日本で課税が行われます。課税の方法は居住者と同様の課税方式となり、所有期間5年以下の短期譲渡の場合は30.63%、所有期間5年超の長期譲渡の場合は15.315%の申告分離課税となります(その年の1月1日に日本に住所が無いため住民税は課されません)。
なお、非居住者が不動産を譲渡する場合は、原則として不動産の購入者により譲渡対価の10.21%の源泉徴収が行われ、この源泉徴収された金額は確定申告の際に精算されます。ただし、不動産の譲渡対価が1億円以下で、かつ購入者が自己の居住用に購入したものについては源泉徴収が不要です。
(6)日本の年金に対する課税
非居住者が受ける日本の公的年金は、国内源泉所得のため日本で課税対象となります。課税方法は分離課税で、その支払いを受けるべき年金の額から6万円にその年金の額にかかわる月数を乗じた金額を控除した金額となり、それに20.42%の税率で源泉徴収され課税関係が終了します。
なお、日本が各国と結んでいる租税条約の中に、公的年金(退職年金)について日本における課税を免除している条約があり、この海外移住者の移住地国がこの免税の締約国であるならば、日本から受け取る公的年金については日本で非課税となります。