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中世ヨーロッパで誕生した「フィデューシャリー」
フィデューシャリー(Fiduciary)という言葉は、いつ誕生したのでしょうか。中世のヨーロッパでは、貴族たちが出征などで長い期間家を留守にする際に、財産など資産管理を信頼のおける第三者に託しました。自分が帰国するまでの間、また、戦場で戦死した場合には子供が成人するまでの間、資産管理を一任したのです。一任された者は「フィデューシャリー」と呼ばれ、資産管理に関する約束は、法律で定められたものではなく、お互いの信頼、あるいは信義の問題によって支えられていました。フィデューシャリーとなった者が当然守るべき義務として、フィデューシャリー・デューティーは発展しました。
米国、英国では、どのようにフィデューシャリー・デューティーが発展していったのでしょうか。平成28年7月6日金融審議会「市場ワーキング・グループ」の説明資料「国民の安定的な資産形成とフィデューシャリー・デューティー」をもとに解説します。
●米国
米国エリサ法(Employee Retirement Income Security Act、1974年)では、すでにフィデューシャリー・デューティーが明文化されています。米国エリサ法は、企業年金の加入者が有する受給権の保護を目的として、1974年に制定された企業年金を包括的に規制する米国連邦法です。
エリサ法におけるフィデューシャリー・デューティーとは、最終受益者の利益のためだけに各種義務を果たすことに加えて、以下の義務を果たすことを指します。
①忠実義務(専ら最終受益者に利益を与え,年金プランの管理費用を合理的なものとすること)
②注意義務(同等の能力を有し,同様な事情に精通している思慮深い者が当該状況において用いることとなる配慮、技能、思慮深さ、熱心さをもって職務を遂行すること)
③分散投資義務(リスク回避のために、その行う投資を分散させること)
④規約遵守義務(年金プランに関連する規約を遵守すること)
米国労働省(DOL)は個人退職勘定(IRA)にエリサ法に基づくフィデューシャリー・デューティーを適用する新しいルール案(2016年)を発表しました(2017年4月以降の施行を予定)。
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従業員が在職中に積み立てた年金(DC)を、退職時に個人退職勘定(IRA)に移管した場合に、現状では、エリサ法における「フィデューシャリー」に該当する投資アドバイス提供者の範囲が狭く、フィデューシャリー・デューティーがIRAに投資アドバイスを提供する投資アドバイザーには適用されていないため、投資家に対する利益相反行為等からの保護が不十分でした。
フィデューシャリーの範囲を見直し、定期的でなくとも、年金受給者に投資に関するアドバイスや推奨を行う者は、原則としてフィデューシャリーに該当することとし、その結果、ブローカー(売買の仲介をする人)・ディーラー(販売業者)等も、フィデューシャリー・デューティーが課されることとなります。
遵守すべきはインベストメント・チェーンの全関係者
●英国
2012年7月に公表した、英国株式市場の構造的問題、上場企業行動、コーポレート・ガバナンスに関する調査・分析レポートのケイ・レビュー(The Kay Review、2012年)(ジョン・ケイ教授のレポート)では、フィデューシャリー・デューティーの原則として「インベストメント・チェーンの全参加者(販売・助言・商品開発・資産管理・運用・その他)は、顧客との関係においてフィデューシャリー・スタンダードを遵守すべきである。フィデューシャリー・スタンダードは ①顧客の利益を最優先すること、②利益相反状態を避けるべきこと、③提供するサービスに対するコストが合理的であり、かつ、開示されるべきであること」としています。
また、欧州連合及び各国の規制当局は、「他人の投資に関する裁量権を持ち、又は投資の意思決定に関し助言を行うインベストメント・チェーンの全関係者にフィデューシャリー・スタンダードを適用すべき」としています。
このように、フィデューシャリー・デューティーという概念は、米英で生まれ育った概念です。日本では、議論が始まったところで、金融事業者の対応もこれからといったところです。
次回は、日本版フィデューシャリー・デューティーの概要について解説していきます。
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