美術品が買えない!? 日本の美術館が抱える大きな問題点

今回は、日本の美術館が抱える問題点について見ていきます。※本連載は、株式会社ギャラリーオリムの代表取締役で、アートディーラーとして活躍する三浦利雄氏の著書、『絵(エッ)、6億円が100億円に―美術品の経済的価値を問う』(ギャラリーステーション)の中から一部を抜粋し、美術品の経済的価値と、日本の美術館が直面する課題について探ります。

「東京都現代美術館」の建設に415億円が使われたが…

東京都現代美術館は1991(平成3)年に着工、95年3月18日にオープン。総工費が415億円だったが、軟弱地盤対策に105億円もかかっている。つまり総工費の4分の1は地盤対策に使っている。

 

都庁の跡地、現在の有楽町アートフォーラム内に作っていれば、もっと集客できる素晴らしいアクセスの美術館だったはず。地盤対策に100億円もの費用は必要なかっただろう。

 

収蔵作品に関しては、上野の東京都美術館に収蔵していた作品3020点が収蔵されて、別に東京都美術資料所得基金が作られ、75億円の基金から534点、総額63億2200万円の作品を取得している。

 

97年3月に基金が廃止され、その後は東京都の予算で88点購入とプラス寄贈が158点で、現在、約3800点の作品をコレクションしている。

 

リキテンスタインは前述の基金から6億1000万円で購入され、もちろん最も高額な作品であるが、今この作品の市場価格は100億円だから、最初の基金63億2200万円、534点の作品がこの1点で「タダ」になったのも同じかもしれない。

 

様々な話題を集めて華々しく開館した美術館は、入館者数で見ていくと、その後迷走を始める。ポンピドゥーコレクション展(97年)に30万人、アンディ・ウォーホル展(96年)9万5000人、荒木経惟展(99年)に7万5000人を集めるなど、順調な企画展もいくつかあったが、入館者(※1)は最初の3年をすぎると減少してしまう。

 

(※1)入館者・・・他館の2016年の年間入館者数を紹介すると、海外のルーブル美術館(フランス)が約900万人、大英博物館(イギリス)約700万人、メトロポリタン美術館(アメリカ)が約650万人。日本では東京都美術館(上野)約270万人、国立新美術館(六本木)約246万人。日本の場合は「日展」など団体展等の集客効果が大きいと思われる。

 

初年度、95(平成7)年が28万人、96年47万人、97年51万人と右肩上りはここまでで、98年は22万人、99年26万人の入館者となってしまった。運営予算は98年21億9000万円、99年14億2000万円、2000年10億7000万円と年々減額され、5年で半分以下となってしまっている。

 

そして2000年度からは、企画展に関しては財団(東京都生涯文化財団)の自主事業となり、経営努力も求められているのである。

美術館の「運営のプロ」を育ててこなかった東京都

この大きな美術館を運営する内部もまったく手薄で学芸員19名、管理19名はいるが、そこには経営のプロもいなければ、マネージメントのプロもいないのである。管理と展示のプロはいても、それは内部のことで、将来のビジョンを描ける人材がいないのである。これは行政の大問題である。

 

財団は他の施設も管理しているので、都の教育庁とか生活文化局との縦割り行政に右往左往させられているのである。今は何とか維持しているというのが現状であろうか。

 

オリンピックを控えて日本の戦後現代美術を見ることのできる唯一の専門館がこのような有様なのである。ニューヨーク近代美術館(MoMA)(※2)、パリのポンピドゥー・センター(※3)と比べるのも恥ずかしい内容と見てとれる。

 

(※2)ニューヨーク近代美術館 The Museum of Modern Art, New York(MoMA)・・・ニューヨーク市マンハッタン・ミッドタウンにある、近現代美術専門の美術館。現代美術の発展に大きく貢献してきた。1929年開館。

 

(※3)ポンピドゥーセンター Pompidou Centre・・・現代芸術の理解者であった大統領ジョルジュ・ポンピドゥーの発案で同時代芸術の拠点としてパリ中心部に設けられた、総合文化施設。1977年開館。

 

なんと東京都現代美術館は美術館の最重要な収集予算が、世界の主要な美術品を購入できる価格から考えると「ゼロ」に近い。

 

現代美術館の役割は、①美術品の収集管理、②常設展示、③企画展示、④美術情報、⑤教育普及、⑥調査研究、この6つの仕事が事業内容なのに、都は箱だけ作って後は知らん顔。確かに都は財政再建が最優先の課題なのだろうが、これでは本末転倒である。よりよい収蔵品のある美術館に集客力があるのは明白ではないか。

 

パリはルーブル美術館で食っていると言っても過言ではない。ニューヨークのメトロポリタン美術館の年間総扱い額は2000億円もあると言われている。

 

これは現在の日本国の輸出入を含めたすべてのアートマーケットバリューに匹敵するのである。たった1館の美術館と日本国の美術品マーケットが同額なのである。ルーブル、メトロポリタンの経済波及効果は明らかではないか。

 

一方、何度も述べるが6億円使って20年間収蔵・展示した、東京都現代美術館のリキテンスタインの作品は、価格が100億円の価値に上がり、プラス経済波及効果があった。それなのに、その美術館の収集予算がゼロに近くなったとは、どうしたことだろう。

 

東京都はこれまで美術館の運営のプロを育ててくることもなかった。教育委員会から2、3年のスパンで全く関心のない人を送りこんでくる。

 

例えばある時期、東京都現代美術館の副館長は、美術館にくる前は、足立区の青果市場の市場長を務めていた。これだけ大きな施設に全くの素人が突然送りこまれている。都民の、いや日本国民の資産を全く運営できない人がやってくるのだ。現代美術の文脈も実情も何もわかっていない、芸術文化のプロではない人が2、3年で行き来しているのである。

 

石原都知事の時には、学芸員に廊下掃除や便所掃除でもやらせるといったくらいのレベルなのである。

 

今までのせっかくの美術館が、その本来の実力の数パーセントも発揮できていない。美術品はイデオロギーを超えて、民族を超えて、唯一人間が集える場所である。社会主義がこわれ資本主義が行き詰った次に来るのは、文化・芸術を軸とした社会基盤ではないだろうか。美術館はただの展示場ではなく、一国の経済にまで影響を与える存在なのではないだろうか。

株式会社ギャラリーオリム 代表取締役

1958年大阪市生まれ。大阪芸術大学デザイン科卒業。1989年大阪、東京の画廊を経て、東京日本橋にギャラリーオリムを開廊。2013年中央区新富町に自社ビルギャラリーを開設。現在、全国美術商相互会会員、日本版画商協同組合会員、現代美術商協同組合会員、関西美術商協同組合会員、協同組合美術交友会会員。

著者紹介

連載美術品の経済的価値&日本の美術館が直面する課題

 

絵(エッ)、6億円が100億円に―美術品の経済的価値を問う

絵(エッ)、6億円が100億円に―美術品の経済的価値を問う

三浦 利雄

ギャラリーステーション

「芸術の普遍的価値よりも、金融商品としての作品の方が、より早くダイナミックな動きをすることを知るべきである」 芸術を愛するが故に、美術館運営・美術業界の在り方に対して、画商があえて本音で語ります。すべてのアート…

 

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