今回は、美術館が「資産価値の高い」美術品をコレクションする意義について見ていきます。※本連載は、株式会社ギャラリーオリムの代表取締役で、アートディーラーとして活躍する三浦利雄氏の著書、『絵(エッ)、6億円が100億円に―美術品の経済的価値を問う』(ギャラリーステーション)の中から一部を抜粋し、美術品の経済的価値と、日本の美術館が直面する課題について探ります。

わずか4年で3倍近い価値となった「おさげ髪の少女」

前回の続きである。

 

このモディリアーニの作品は、当初の思惑どおり名古屋市美術館の目玉作品として多くの市民の愛好する作品として親しまれてきた。さて、この作品は購入後、10数年で、市場価値がどうなったのか、それを調べる必要がでてきた。

 

「1990年に、〈おさげ髪の少女〉を海外の美術展に貸し出すことになりまして、保険を掛けなくてはいけないので専門家に再評価を依頼しました。その時の評価額が10億円ということになりました。ですから10億円の保険をかけて海外に持って行ったんです。」

 

やはり購入担当者だった深谷克典氏(名古屋市美術館副館長)は、展覧会貸し出しの際の再評価で10億円の価値になったことを確認した。3億6000万円の作品が4年で10億円になっていた。わずか4年で3倍近い価値を持ったことになる。

 

深谷克典氏
深谷克典氏

 

それから、また20年近くの時間が経過しているが、現在では、どのくらいになっているのか。

 

国際オークションの推移を見ていると、2015年にニューヨークのクリスティーズに出品された裸婦の大作で名品と言われている「横たわる裸婦」が、210億円で落札されて話題になった。名古屋市美術館の「おさげ髪の少女」は大作ではないが、80億円くらいの価値はあると推定される。つまり、約30年で、資産価値は20倍になっている。

 

それだけではなく、名古屋市美術館は「おさげ髪の少女」の購入と同時に「立てる裸婦(カリアティードのための習作)」も3600万円で購入している。この作品も、昨年、ヨーロッパのモディリアーニ展の貸し出しの際に再評価すると5億円という数字になったという。この作品も約14倍の価値となった。

購入金額だけでなく、将来的な価値にも目線を

名古屋市美術館の資産が、この2作品によって、どれほど大きくなったか市民の人達は知っているのだろうか。

 

ただ冷静な目で見ている深谷克典氏は、「同じエコール・ド・パリの画家で購入した作品の中でも、ユトリロ(※1)やローランサンは価格が下がっていると思いますから、トータルで見るとどうでしょうかね」というが、もし、収蔵作品全体をそうした観点で見て、集計していったら逆に面白いのではないかと思う。

 

(※1)ユトリロ・・・モーリス・ユトリロ Maurice Utrillo(1883-1955)

フランス人画家。主に風景画を描いた画家。

 

国際的な評価の高い代表的な作品をしっかりとコレクションしていれば、けっしてマイナスにはなっていないと推測できる。

 

名古屋市美術館のモディリアーニの例でも分かるように、評価が上がっている作家の作品は、その上がり方はとても大きく、価格が落ちた他の作品のマイナスをカバーして余りあるということになるだろう。

絵(エッ)、6億円が100億円に―美術品の経済的価値を問う

絵(エッ)、6億円が100億円に―美術品の経済的価値を問う

三浦 利雄

ギャラリーステーション

「芸術の普遍的価値よりも、金融商品としての作品の方が、より早くダイナミックな動きをすることを知るべきである」 芸術を愛するが故に、美術館運営・美術業界の在り方に対して、画商があえて本音で語ります。すべてのアート…

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