今回は、24億円分の作品を購入した名古屋市美術館について見ていきましょう。※本連載は、株式会社ギャラリーオリムの代表取締役で、アートディーラーとして活躍する三浦利雄氏の著書、『絵(エッ)、6億円が100億円に―美術品の経済的価値を問う』(ギャラリーステーション)の中から一部を抜粋し、美術品の経済的価値と、日本の美術館が直面する課題について探ります。

資産価値の高いモディリアーニ作「おさげ髪の少女」

名古屋市美術館が収蔵作品の目玉として、開館前々年の1986年に購入したモディリアーニの代表作「おさげ髪の少女」の当時の購入価格は3億6000万円だった。現在、オークションに出せば80億円の価格はつく作品だ。

 

国際的に人気のある、エコール・ド・パリ(※1)の画家モディリアーニのその作品はどのような経緯で購入されたのか、当時の担当者であった美術館の関係者に話を聞くために、名古屋市美術館まで足を運んだ。

 

(※1)エコール・ド・パリ École de Paris・・・1920年代を中心にパリのモンマルトルやモンパルナスに各国から集まって活動した、画家たちの総称。「パリ派」という意味。日本人では藤田嗣治がいる。

 

モディリアーニ《おさげ髪の少女》名古屋市美術館
モディリアーニ《おさげ髪の少女》名古屋市美術館
1918年頃、キャンバス・油彩(60.1×45.4cm)

 

モディリアーニ⭐️《立てる裸婦(ガリアティードのための習作)》⭐️名古屋市美術館⭐️1911-12年頃板、紙・油彩(82.8×47.9cm)
モディリアーニ
《立てる裸婦(ガリアティードのための習作)》
名古屋市美術館
1911-12年頃板、紙・油彩(82.8×47.9cm)

 

名古屋市美術館は、80年代の美術館ブームの時期にできた美術館のひとつで開館は1988年。作品の収集方針としては、「郷土の美術」「エコール・ド・パリ」「メキシコ・ルネサンス」「現代の美術」と4つの柱を決めて、それに則して作品が収集された。

 

モディリアーニの「おさげ髪の少女」は、その柱のひとつ「エコール・ド・パリ」の代表的な作家の作品として購入された。

幸運が重なり、購入反対運動は起こらず

全体の予算は、美術館建築に42億円、作品購入が24億円とされ、モディリアーニの作品はその予算の中で購入されたもっとも高価な作品だった。

 

名古屋市の場合は、8000万円を超える金額の購入は議会案件となり、市議会の承認が必要となる。開館時の購入希望作品で唯一このモディリアーニの作品だけが承認の必要な価格だった。

 

しかし、担当者の心配をよそに、議会の承認は比較的すんなりと通ったようだ。東京都現代美術館のリキテンスタインのような反対運動は起こらなかったという。

 

ちょうどその購入希望の作品は、前年に名古屋で開催された「モディリアーニ展」(愛知県美術館)に出品され、展覧会図録の表紙にもなった代表的出品作品だった。愛らしい少女を描いた作品で、モディリアーニの人物画としては珍しく目玉までしっかりと描かれた数少ない作品だった。

 

「現代美術と違って、エコール・ド・パリの知名度の高いモディリアーニの作品で、しかも親しみやすい少女の絵だったことで、理解が得られやすかったのでしょう。それと、山梨県立美術館がミレーの代表作を購入していましたが、そうした目玉作品の待望論みたいなのがありましたね。美術館をつくるなら、名古屋市美術館にもそういう作品がひとつ欲しいということもありましたね」

 

当時の名古屋市美術館の作品購入担当者のひとり吉田俊英氏(前豊田市美術館館長)はこう語った。前年に展覧会に出品された作品を購入したのは、最初からそうした戦略上の作戦で展示したのじゃないかと勘繰られたらしいが、それは、本当に偶然の幸運な出来事だったらしい。

 

吉田俊英氏
吉田俊英氏

 

この話は次回に続く。

絵(エッ)、6億円が100億円に―美術品の経済的価値を問う

絵(エッ)、6億円が100億円に―美術品の経済的価値を問う

三浦 利雄

ギャラリーステーション

「芸術の普遍的価値よりも、金融商品としての作品の方が、より早くダイナミックな動きをすることを知るべきである」 芸術を愛するが故に、美術館運営・美術業界の在り方に対して、画商があえて本音で語ります。すべてのアート…

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