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6億円の絵が100億円に・・・資産としての美術品をどう考えるか?

本連載は、株式会社ギャラリーオリムの代表取締役で、アートディーラーとして活躍する三浦利雄氏の著書、『絵(エッ)、6億円が100億円に―美術品の経済的価値を問う』(ギャラリーステーション)の中から一部を抜粋し、美術品の経済的価値と、日本の美術館が直面する課題について探ります。

「漫画に都民の税金を6億円も使うなんて!」

2015年11月9日、ニューヨークのクリスティーズ・オークションで、アメリカン・ポップアートの旗手、ロイ・リキテンスタインの作品「ナース(Nurse)」が、日本円にすると約117億円($95,365,000)で落札された。

 

実際に、ニューヨークのロックフェラー・プラザの会場で見ていた私は、その瞬間、思いだしたのが、東京都現代美術館が1995年の開館時に約6億円で購入した、同じリキテンスタインの作品「ヘアリボンの少女」だった。

 

ロイ・リキテンスタイン《ヘアリボンの少女》東京都現代美術館Image:東京都歴史文化財団イメージアーカイブ
ロイ・リキテンスタイン《ヘアリボンの少女》
東京都現代美術館
Image:東京都歴史文化財団イメージアーカイブ

 

この作品の購入に関しては、記憶している方も多いだろうが〈「ヘアリボン少女」事件〉と言われたほど、マスコミなどにも取り上げられ大きな社会問題となった。

 

当時、バブル経済の終焉から数年を経ていたが、日本には近代美術館は各地にあっても、現代美術を専門に扱う現代美術館はどこにもなかった。

 

その部分では世界に後れをとっていたそんな時期に、東京都はいち早く現代美術館を開館する計画を実行した。その予算は400億円を超える、公立美術館としては大規模なものだった。現代美術に関わる私も、どんな美術館ができるのか期待した。

 

その、美術館の購入作品の目玉となったのが、リキテンスタインの「ヘアリボンの少女」だった。東京都では購入価格が2億円を超えるものは都議会の承認が必要になるが、この作品は、6億円の価格が付いていたから、当然、議会に掛けられることになった。

 

そして開館前年の議会で審議された時、議員から「漫画に6億円」という、ヤジが飛んだ。そこから、この作品購入の妥当性が、論議と言うより批判の的となったというのが正しいところだろう。

 

古き良きアメリカのコミックをアートにした作品だから、漫画といわれても仕方がない作品だが、リキテンスタインのこの作品を、美術史の文脈の上で、どんな意味のある作品なのかが論議されれば、単に漫画という批判は当たらないはずだ。リキテンスタインの作品は抽象表現の先駆者、ピエト・モンドリアン(※1)の影響などからも論じることができる。

 

(※1)ピエト・モンドリアン Piet Mondorian(1872-1944)・・・オランダの画家。赤、黄、青の三原色のみを用い、水平と垂直の直線による画面構成の作品を発表した。本格的な抽象絵画を描いた先駆者。

 

しかし「漫画に都民の税金6億円も掛けるのか」という、煽情的な批判をマスコミ等が展開した。ヒステリックな論調に対して苦々しい思いを抱いていたのは私だけではないだろう。このリキテンスタインに限らず、公的美術館が高額美術品を購入するときは、必ず、こうした問題が持ち上がる。

時を経れば貴重な文化遺産に・・・価格だけが重要ではない

さて、落札価格が117億円となった「ナース」に話を戻そう。この作品の作品サイズは、東京都現代美術館の「ヘアリボンの少女」と全く同じサイズ(121.9×121.9cm)で、制作年は「ナース」が64年で「ヘアリボンの少女」が翌年の65年。同時期の同傾向の作品だということになる。共にリキテンスタインの代表作だと言われている。

 

ということは「ナース」の落札価格は、「ヘアリボンの少女」が仮に売りに出されたとした時の参考価格になるはずだ。つまり、現在100億円以上の価値があるということになる。

 

あの時6億円だった「ヘアリボンの少女」の資産価値がなんと100億円を超える作品になっている。この作品購入を決めた人達へは拍手喝采をおくり、称賛するべきではないか。

 

マスコミも、20年前に「漫画に6億円」と、紙誌面をにぎわせただけでなく、追跡調査をして、購入した作品の評価価格がどう推移したかを辿れば、きっと美術品に関する考え方が変わっただろう。贅沢な買い物ではなく、価値のある資産の運用だと考えるようになるはずだ。そうなれば、美術品に対する社会の見方ももっと深くなっていくのではないだろうか。

 

現実は、今、リキテンスタインの作品を購入しようと思っても、あのクラスの作品は6億円では絶対に買えないということ。それが、われわれの東京都現代美術館に収蔵されているということだ。

 

こうした例は、他の美術館の作品でもいくらでも述べることはできる。少し長くなったが、私が言いたかったのは、美術作品は貴重な文化遺産となるもので、贅沢で高額な買い物ではないということだ。美術品というものが、どれだけ貴重で、どのように価値が維持されていくのか、それをこの連載でいくつか見ていきたいと思う。

 

だが、美術品ならどんなものでも価値が上がっていくのかと言うと、そうではない。実際の例を見ながら、何が時代の中で価値あるものとなっていくのか検証していこうと思う。

 

その価値の切り口も、経済的な側面から見ていく。もちろん作品の芸術的価値、普遍的価値というものは永続性があり、経済的な側面だけでは測れないものがあるのは当然だが、この連載では、あくまでも経済的な価値に焦点を絞り、美術品の在り方を見ていこうと思う。

株式会社ギャラリーオリム 代表取締役

1958年大阪市生まれ。大阪芸術大学デザイン科卒業。1989年大阪、東京の画廊を経て、東京日本橋にギャラリーオリムを開廊。2013年中央区新富町に自社ビルギャラリーを開設。現在、全国美術商相互会会員、日本版画商協同組合会員、現代美術商協同組合会員、関西美術商協同組合会員、協同組合美術交友会会員。

著者紹介

連載美術品の経済的価値&日本の美術館が直面する課題

 

絵(エッ)、6億円が100億円に―美術品の経済的価値を問う

絵(エッ)、6億円が100億円に―美術品の経済的価値を問う

三浦 利雄

ギャラリーステーション

「芸術の普遍的価値よりも、金融商品としての作品の方が、より早くダイナミックな動きをすることを知るべきである」 芸術を愛するが故に、美術館運営・美術業界の在り方に対して、画商があえて本音で語ります。すべてのアート…

 

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