法人契約の保険はあくまでも「利益の繰り延べ」
生命保険への加入も節税手段としてよく利用される方法です。保険料を損金算入できる生命保険に加入することによって会社の利益を圧縮し、支払う税金を減らす方法です。ところが、これは思い込みにすぎないケースが多いのです。
よくよく考えてみると、このようにあからさまな節税を国はなぜ認めているのでしょうか。すべての会社がこの方法で法人税額を大幅に圧縮すれば、法人税が激減してしまいます。国にもさまざまな悪影響を及ぼすでしょう。国が滅びかねないといっても過言ではありません。実は、損金算入できる法人契約の保険は「税金対策」になっていないのです。そもそも法人契約の保険は「利益の繰り延べ」です。保険に加入することで利益をプールすることができます。
しかし、いずれ保険金や解約返戻金を受け取るタイミングで納税することになります。つまり、保険加入によって納税のタイミングを自分で決めることができるのです。だからこそ、この仕組みを国が認めているのです。
では、「利益の繰り延べ」によって納税のタイミングを自分で決めることにはどのようなメリットがあるのでしょうか。最も単純なことでいえば、一度払ってしまった税金は返ってきませんが、利益の繰り延べをしておけば、簿外に利益を積み立てることができるので、さまざまなリスクに対応することが可能です。
また、税金は払ってしまえば終わりですが、保険は加入している間、保障が付いています。たとえ後に支払う税額が変わらなかったとしても、保障があるのとないのでは大違いです。さらに、政府は法人税改革によって、法人税の税率を引き下げる方向にあります。これは、利益の繰り延べにプラスに働きます。
今後の法人税「引き下げ」の流れを考えれば・・・
もう少し詳しく説明しましょう。2015年度から法人税の実効税率が約34%から約32%へ引き下げられ、16年度には約31%に引き下げされる予定です。さらに、将来的には、20%台も視野に入っています。
つまり、現在、法人税を支払うと約32%の税率が適用されますが、利益の繰り延べを使い、将来、法人税を支払えば、20%台ですむことになります。法人税が下がるほど、利益の繰り延べを利用した方が負担は軽くなるのです。
ただし、税率は半分や10分の1になるわけではありません。今回の税制改正に限っていえば、約34%から約31%へと数%の下げ幅にすぎません。この税率の引き下げ効果以上に、保険の保障コストがかかってしまえば、結果的に利益を減らすことになってしまいます。
支払った保険料のうち、保障コストとなるのは「掛け捨てとなる保険料部分」です。ですから、損金になるからといって闇雲に加入するのではなく、掛け捨て部分の少ない、つまり解約返戻率が高い商品を選択すべきです。
併せて、この解約返戻金を受け取るときに、その資金の使い道を考えておく必要があります。「役員退職金の支払い」「大型設備投資」「老朽化した設備の修繕」などを解約返戻金のタイミングに合わせれば、その分を損金算入できるので、受け取る解約返戻金で膨らんだ利益を他の損金で相殺することができます。
結果的に保険料を支払うときに損金算入され、解約返戻金を受け取るときも他の損金で相殺できるので節税が完結するのです。実際に、このような効果を得るには、契約する時点で計画を立案してから実行しなければなりません。特にポイントとなるのは、解約返戻率がピーク(返戻率が一番高い時期)になる時期と、まとまった資金が必要となる事柄(役員退職金や大型設備投資等)の発生タイミングを合わせなければならないという点です。当然ですが、保険を解約すれば、万一の際の保障もなくなります。
もし、保障が引き続き必要であれば、無診査(健康状態を問わず)で保障を残す方法もあります。これらの施策を間違いなく実行するには、専門家の力が必要です。
保険会社によって「返戻率が1割違う」場合もある
日本の金融機関はかつて護送船団方式だったため、商品は横並びでした。銀行ではどこに預けても金利は変わりませんでしたし、生命保険や損害保険の保険料も一律でした。そんな時代が長く続いてきたのです。
しかし、金融の自由化によって、はじめて競争原理が導入され、少しずつではありますが、保険会社ごとに差が出てくるようになっています。現在では保険会社によって保障内容や保険料、解約返戻率にかなりの差が出てきています。
保険会社によって、「返戻率が1割違う」ということもあります。法人契約で加入する生命保険の場合は、保障額も高額になるのが一般的です。仮に、年間保険料500万円で15年間続けた場合、実に750万円もの返戻金の差となってしまうので注意が必要です。
日本には40社を超える生命保険会社があります。その中から、加入目的にあった最高のパフォーマンス(保険料や返戻率)の商品を選ぶべきでしょう。乗り合い代理店(複数の生命保険商品を同時に扱う代理店)を有効に活用するのはもちろんのこと、営業担当者がその商品を提案する根拠を明確に提示できているかが選択のポイントといえます。