経営資源が制約される「後継者」が克服すべき課題

前回は、先代から引き継いだ経営資源が後継者に与える影響について考えました。今回は、経営資源が制約される「後継者」が克服すべき課題について見ていきます。

ファミリービジネスの後継者と社内企業家の類似点

日本の大手企業などでは、通常、新市場開拓(海外での販売拠点設置など)や新製品開発を行う際に、社内ベンチャーとして子会社を設立することがあります。この社内ベンチャーは、本社から必要な経営資源(従業員、工場や設備、資金、ブランドや技術など)の提供を受けています。社内ベンチャーの経営者(以下、社内企業家と表記します)は、本社に対して経営資源を依存しており、ゼロから事業を立ち上げるベンチャー企業家(起業家)とは性格を異にします。

 

他方、社内企業家は、多くの場合、新規事業における利益責任が求められます。社内企業家のポジションとは、事業規模は小さいながらも経営責任を担うことであり、擬似的な経営者としての思考や行動を経験できるメリットがあります。そのため、大手企業では、社内ベンチャーを将来の経営幹部候補に経験させる一つのポストとして活用される場合があります。

 

実は、ファミリービジネスの後継者の環境は、社内企業家がおかれる環境と似ているといえます。前回の連載の通り、ファミリービジネスの後継者は先代経営者から経営資源を依存しています。加えて、筆者の調査によると、老舗ファミリー企業の後継者は新製品開発プロジェクトなどを任されている事例があげられています。

 

この事例では、後継者は先代経営者の管理下にあるものの、新規プロジェクトにおいて独自の思考や行動が求められ、売上高や利益の責任を伴う仕事を任されていました。その意味では、社内企業家と同様、新規プロジェクトにおいて利益責任が求められています。

 

それだけではありません。社内企業家とファミリービジネスの後継者とは、利用可能な経営資源が制約されているという意味でもおかれている環境が似ているといえます。社内企業家は、新規事業の設立時こそ、本社から従業員や資金などの経営資源の支援を受けますが、いざ事業が開始されると追加的な経営資源の提供は制限されます。社内企業家は、自分で経営資源を調達することが求められるのです。

 

社内企業家の場合の「本社」を「先代経営者」と読み替えれば、ファミリービジネスの後継者も同様の仕事環境におかれているといえます。特に事業承継プロセスの初期(後継者の入社直後の時期)において、後継者は先代経営者の経営資源を無条件に利用できる状況ではなく、先代経営者からの経営資源の供給が制限されていることが、筆者の研究でも示されています。

 

[図表]社内企業家と後継者の経営資源の獲得

出所:筆者作成
出所:筆者作成

経営資源の制約によって育まれる「企業家精神」

最後に、本社(先代経営者)から提供される経営資源の制約が、生み出す意味について考えていくことにしましょう。

 

第一に、社内企業家や後継者の視野を外部に向けさせるという効果(経営上の視野の拡大)があります。本社(先代経営者)という自社内部からの経営資源の供給に制約がある中で、新規事業の経営に必要な経営資源を外部の新たな調達先(例えば事業を展開する地域社会など)に求めなければなりません。

 

第二に、社内企業家や後継者の企業家精神を涵養する効果が上げられます。事業経営において本社や先代経営者に依存する姿勢ではなく、自分で必要な経営資源を獲得して展開していく自律性が求められます。この社内企業家もしくは後継者による主体的行動が、将来全社的なレベルでのイノベーションを起こしうる企業家としての素地をつくるといえるでしょう。

 

第三に、他方で本社(先代経営者)との関係性を構築するバランス感覚を養成できる効果です。社内企業家や後継者は、将来、全社的規模の仕事が任されます。その際に必要なことは、外部の利害関係者から新たな経営資源を調達するだけではなく、既存の経営資源(本社や先代経営者が保有する経営資源)との融合など上手なマネジメントの能力が求められるのです。

 

このように、社内企業家の概念を事業承継プロセスに持ち込むことで、ファミリービジネスの後継者養成について多くの示唆を得ることができます。

 

<参考文献>

Burgelmn, R. A. & Sayles, L. R.(1986) INSIDE CORPORATE INNOVATION, THE FREE PRESS.

Pinchot, G (1985). Intrapreneuring: Why You Don't have to Leave the Corporation to Become an Entrepreneur, Harper and Row. (清水紀彦訳『イントラプルナー 社内起業家』講談社, 1985).

落合康裕(2014)『ファミリービジネスの事業継承研究-長寿企業の事業継承と継承者の行動-』神戸大学大学院経営学研究科博士論文.

落合康裕(2016)『事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント』白桃書房.

Wickham, P. A. (1998) Strategic Entrepreneurship, Pitman Pub.

静岡県立大学大学院 経営情報イノベーション研究科 准教授
ファミリービジネス学会理事
 

1973年神戸市生まれ。静岡県立大学大学院経営情報イノベーション研究科准教授。名古屋商科大学大学院マネジメント研究科客員教授。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。経営学者。

大和証券株式会社入社後、本社人事部にて労務管理業務、大和証券SMBC金融法人部にて大手機関投資家に対するRM業務を担当。その後、研究者に身を転じて、2014年に日本経済大学経営学部(東京渋谷キャンパス)准教授に就任。2018年より現在の静岡県立大学大学院経営情報イノベーション研究科准教授に就任。

現在、ファミリービジネスの事業承継について経営学の観点から研究を行う。大学での研究活動を軸に、ビジネススクールにおけるケースメソッド形式による事業承継講座を担当するほか、後継者向けセミナーの講師などを務める。2015年に、日本で初めてのファミリービジネスの実証研究書となる『ファミリービジネス白書2015年度版』を株式会社同友館から発刊。2018年には、『ファミリービジネス白書2018年度版』を株式会社白桃書房から発刊する。同書の刊行時より、企画編集委員長をつとめる。

著者紹介

連載円滑な世代交代を実現――事業承継の要諦

本連載は書下ろしです。原稿内容は掲載時の法律に基づいて執筆されています。

 

事業承継のジレンマ

事業承継のジレンマ

落合 康裕

白桃書房

【2017年度 ファミリービジネス学会賞受賞】 【2017年度 実践経営学会・名東賞受賞】 日本は、長寿企業が世界最多と言われています。特にその多くを占めるファミリービジネスにおいて、かねてよりその事業継続と事業承継…

 

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